USスチールが日鉄買収を承認 政治問題化の中、労組の説得がカギ

買収の成否は大統領選後?

 最大の難関・労働組合を説得できるか─。

 米国時間の2024年4月12日、米鉄鋼大手・USスチールは臨時株主総会を開催し、日本製鉄(今井正社長)の買収提案を承認した。賛成の比率は約71%だった。

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 USスチールCEO(最高経営責任者)のデビッド・ブリット氏は「両社の強みを結集し、『世界をリードする能力を持つ最高の鉄鋼メーカー』として共に前進する一歩手前まで来ている」とコメント。日本製鉄でこの案件を特命で担当する副会長の森高弘氏は「設備投資の拡大や先進技術の提供を通じて、関係する全てのステークホルダーの利益のために、米国市場においてUSスチールを支え、成長させる」という声明を出した。

 ただ、USスチール総会での承認は、事前に大株主などが賛成を表明していたこともあり予想通りの結果。問題は、やはり労働組合を説得できるか。

 大統領選挙に向けて、USW(全米鉄鋼労働組合)の支持が欲しいジョー・バイデン氏も、ドナルド・トランプ氏も、表現は異なるが日鉄の買収に反対のスタンスを取っている。

 米国時間の4月10日、日米首脳会談後の会見でバイデン氏は「私は米国の労働者に対する約束を守る」と述べる一方、「我々の同盟関係への責務を守る」とも話し、微妙な言い回しに終始。首相の岸田文雄氏は「法に基づき、適正に手続きが進めると考えている」と冷静な対応に期待。

 USWは総会後、「今日の投票が終わりではない」という声明を出し、改めて反対の姿勢を示した。日鉄は3月に14億ドルの追加投資や、26年まで解雇や工場閉鎖を行わないという条件を提示しているが、説得に至っていない。安全保障上の問題を審査するCFIUS(対米外国投資委員会)の承認も必要。

 米国の同業が日鉄の半値程度での買収を狙っていると伝えられるが、米国内のシェアで独占禁止法に抵触する恐れがあり現実的ではない。

 日鉄は24年9月までの買収完了を目指すが、現地では買収の成否は大統領選後まで伸びるとの見方も出る。いずれにせよ、労組および米世論を日鉄が説得できるかどうかにかかっている。