2023年11月18日(土)~19日(日)にお台場のテレコムセンタービルにて、サイエンスアゴラ2023が開催されました。そこで、生きもの大好き 科学コミュニケーターの片岡、上田、マルの3人組でブースを出展しました。様々なお客さんに楽しんでいただきました!
行けなかった! という方もご安心ください。今回は、その企画の一部をご紹介します。
サイエンスアゴラ2023に出展しました!
タイトルはこちら!
「身近な自然の見る“目”が変わる⁉ よく見る生きもの観察会」
みなさんにはまずクイズに参加してもらいます。
この記事を読んでいるみなさんも、ぜひクイズの答えを考えてみてください。
クイズ!なんの生きもの?
私たちは、現場に「ある生きもの」を連れてきていました。それがいったい何かを当ててもらいます。
手がかりはパネルに貼ってある付せんです。
これらの付せんには、答えとなる生きものを見た人たちの「その生きものとの思い出や経験」が書かれています。
例えば
「実家に植わっています。」
「秋の公園に友達の新車で連れて行ってもらってたくさん遊んだ。楽しかった~。帰宅後、友達から“玄関と車の中がくさい”と連絡が来た。ふんじゃったかな⁉」
「留学生に、“すごく特別な生き物で見てみたかったやつ”と言われてびっくりした。(何の話をしているのか分からなかったくらいに)特別だと認識してなかった。」
書き方も内容も、その人の感じ方で表現しているので、同じ生きものを見たはずですがバラバラな内容が書かれています。誰もが見たことある、知っている生きものですが、その人それぞれの視点から語られた姿はなかなかピンとこないところもあります。
まだピンときていないみなさんに朗報です。ヒントもあります。
こちらのパネルには、答えとなるある生きものを会場で実際に観察して気が付いたポイントが書かれています。先ほどのナゾパネルと違って、共通の定規や虫めがねなどのツールを使って計測、観察をしているので、同じような結果が集まって、その生きものの特徴をイメージできるはずです!
例えば、こんな付せんが集まりました。
「さらさらだったり、ざらざらだったり…目に見えないけど、おうとつが少しキラキラ」
「よく見ると筋がたくさんある。色は上から変わる。」
「ぼつぼつしてまるい(赤ピンク色)、えだにつかまってる、かたい」
同じ生きもの、同じツールを使って計測、観察したはずですが、またバラバラ……
この付せんを書いた人たちは、いったいその生きもののどこをどのように見たのでしょうか?
会場でも、ヒントをみて「あれ? わからなくなった!」という方が何人もいらっしゃいました。ヒントのはずが、逆に混乱してしまいますね。
さて、混乱の極みかと思いますが、これらの付せんはどんな生きもののことを言っているか分かりましたか?ちなみに、ここでいう「生きもの」は生物全般です。ぜひ視野を広げて考えてみてください!
正解は、「イチョウ(ギンナン)」でした!
サイエンスアゴラ当日では、一緒に参加された人同士で考えたり、わかった人がさらにヒントをだしたりしながら考えている方もいらっしゃいました。参加された方のうち、半分以上の方々が正解にたどり着いていました。みなさんは、いかがだったでしょうか。
クイズを終えたら観察会!そしてあなたも出題者
クイズの後はようやく観察会です。観察して気が付いたことを付せんに書いてもらいます。その気づきは、次にクイズに参加する人へのナゾやヒントになります。これで、あなたも出題者です。
まず、みなさんの生活とイチョウのかかわりをみてみましょう。イチョウを想像したとき、や経験はありますか? また、その時に感じたことなどはありますか?これを付せんに書いてもらいます。
書き方は、その人それぞれの「主観」でOK。同じイチョウでも見る人が違えば、感じ方や接する機会は様々です。当日も、とっても個人的な思い出や視点が集まりました。バラバラな意見が集まるほど、ナゾは深まり、クイズの難易度は上がります。
次に、実物のイチョウをみてみましょう。街路樹としてよく見かけるイチョウですが、足を止めてじっくり観察したことは意外と少ないかもしれません。 当日では、虫めがねや顕微鏡を使って肉眼で見ることができない葉の表面の様子を観察したり、定規を使って大小さまざまな葉や実の大きさを計測したりしました。
「葉っぱの線が思っていたよりたくさんある」
「葉っぱの表面が塩の結晶みたいにキラキラしている」
「枝に束になるように葉が生えているんだ」
「先が割れている葉っぱと割れてない葉っぱがあるんだね」
改めてみてみると、知っているはずの生物の知らないところが見つかりました! さらに、人によって観察したいと目を付けるポイントや気が付く内容も異なるので、様々な新しい発見が集まりました。ひとりで観察していたら、ここまで多様な発見はなかったと思います。
今回のブース出展は、自身の生活とイチョウのかかわりをよく「みる」、実物のイチョウをよく「みる」、さらに様々な人の視点をとおして「みる」ことで、身近な生きものの多様な見方が集まる観察会になりました。
観察会でのおしゃべり
ここからは、実際に観察会でどんなコメントが書かれて、どんなお話がされたのか、担当の科学コミュニケーターが選んだ付せんと小話をご紹介します。
科学コミュニケーター片岡が選んだのは、ヒントパネルからの1枚です。
「こなチーズみたいなにおい。」
小学生くらいの女の子が「くさい…」といいながら、観察していました。インパクトの強いにおいですが、例えるのは中々難しいイチョウの実。知らない人にこの匂いを伝えるにはどうしたら良いか一緒に考えて、彼女のこれまでの生活の中から、近いものを選んで書き出してもらいました。共感できるような、できないような。客観的に書き出す難しさと面白さを感じました。
科学コミュニケーター上田が選んだのは、ナゾパネルからの1枚です。
「秋になると、父は早起きしてこれを拾ってきた。夜になると母が調理してこれが食卓にのぼった。子供どもの頃は苦手だったのに、いつの間にか美味しいと感じるように。温かな想い出。」
ナゾとして過去の思い出を振り返っていただいた一枚です。書いてくださった参加者さんは自分の親世代くらいの年齢で、その世代の方から子ども時代の話を聞くのは新鮮でした。何より、このふせんを書いてくれているときの参加者さんがすごく優しい表情をされていて、大切な思い出を共有していただけて嬉しかったです。
科学コミュニケーターマルが選んだのは、ナゾパネルからの1枚です。
「北海道出身の私は小さい頃、とある和食に入っているこの生物を栗の甘露煮だと思って食べて以来苦手です……北海道では栗の甘露煮が一般的なんですもん……」
この付箋を読むと多分茶碗蒸しのお話しをしている。小さい頃に銀杏を栗の甘露煮と思ってしまったらしい。最近まで銀杏も栗の甘露煮もあまり見たことない私が、見比べた時に驚きました。確かにいろいろ似ています。実は別のくだものに対する似たような経験を思い出した。私たちの「普段・基本」は知らないもの判断にすごい影響していることに改めて気づいた。
出展を終えて
今回のブースでは、身近な生きもののおもしろさを感じてほしい! という思いからスタートしました。身近な生きものたちは、いることが当たり前すぎて普段気に留めることは少ないかもしれません。ですが、まだまだ未知で、おもしろさを秘めた存在でもあります。今回、改めてじっくり「みる」ことで、少しでもそのことを感じていただけていたら嬉しく思います。
また、他の人の視点を通してみると、同じ生きものでもまた違った表情が見られます。この観察会でも、気が付いたことを誰かと共有することで、様々な新しい発見が生まれました。多様な人が集まり、語らえる「観察会」という場ならではの体験ができたことを大変おもしろく感じています。
このブログ記事とブースでの体験を通じて、わざわざ遠くに出かけなくても出会える、そんな身近な自然に改めて目を向けてもらえたら嬉しいです。そして、ぜひご家族やお友達同士でも、クイズを出し合って、思い出や気が付いたことを語り合ってみてください。
執筆: 片岡 万柚子(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
【担当業務】
アクティビティの企画全般に携わり、来館者への情報発信や対話活動を行う。学校団体を対象とした企画やコンテンツの開発も担当。最近は、「対話」「生物」「自然環境」に関する活動や企画に取り組む。
【プロフィル】
大学で初めて土を基盤とした生態系のすごさ、そこで暮らす生き物たちの面白さを知り「こんな身近に全く知らない世界が広がっていたのか!」という感動から、土壌動物の世界にハマりました。当時の感動を、多くの人々にも伝えたいと思い、未来館へ。今は、その感動だけでなく、身近な自然の魅力を共有したり、楽しく学びを得られる仕組みを考えたりしています!ぜひ、一緒におもしろがりながら、身近な感動を発見しましょう!
【分野・キーワード】
土壌生物学、生態学、自然環境、生物