NHK経営委員長に野村HD前会長の古賀信行氏

「NHKが健全に運営されていることを念頭に、執行側に足りない部分があればアドバイスしていきたい」─こう話すのは、NHK経営委員長に就任した野村ホールディングス前会長の古賀信行氏。

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「NHKを自らの意向に沿うように改革しようと意欲を燃やしていた安倍晋三・元首相や盟友の葛西敬之氏(元JR東海社長・会長)が亡くなった影響が大きい」。総務省のある幹部は今回の人事をこう評価する。

 実際、安倍氏が首相を務めた時期は、NHK経営委員長やNHK会長ポストは安倍氏を囲む財界人グループ「四季の会」メンバーを中心に人選されていた。

 歴代経営委員長では富士フイルムホールディングス元社長の古森重隆氏や、JFEHD元社長の數土(すど)文夫氏らがその代表格。NHK会長もJR東海元社長の松本正之氏や元三井物産副社長の籾井勝人氏ら安倍・葛西人脈の有力者が送り込まれた。元みずほフィナンシャルグループ社長でNHK前会長の前田晃伸氏もその流れを汲んでいた。

 だが22年に葛西氏、安倍元首相が相次ぎ亡くなったことで風向きは一変。フリーハンドを得た岸田首相は、まず前田氏の後任に元日本銀行理事の稲葉延雄氏を選んで岸田カラーを打ち出した。

 首相に稲葉会長案を推薦したのは、稲葉氏と東京教育大附属中・高の同級生だった宮澤洋一・自民党税調会長だった。

 昨年1月に就任した稲葉氏は、前田前会長時代の急激な経営改革で大きなひずみができた組織の立て直しを進めている最中。本来認められていない衛星放送(BS)番組のインターネット配信の関連支出を23年度予算に計上するなど不祥事が相次いでいるが、NHKの課題はガバナンス強化にとどまらない。

 放送法の改正に伴い、インターネット業務が「必須業務」となる予定で、ネット時代のメディア、公共放送のあり方が問われている。経営方針の決定権も握る経営委員会トップとしての古賀氏の役割は重みを増しそうだ。