経産省主導の「国産ジェット機」 再挑戦に早くも懸念の声

三菱重工撤退の記憶も新しい中…

 三菱重工業が国産初のジェット旅客機「三菱スペースジェット(MSJ)」の開発を断念してわずか1年余。経済産業省が再び「日の丸ジェット機」開発の国策プロジェクトに動き出した。

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「民間企業1社で航空機開発を担うのは困難。政府がより前に出る支援の枠組み作りが課題だ」─。

 経済産業省は3月27日、産業構造審議会(経産相の諮問機関)に提示した新たな「航空機産業戦略」でこう強調。今後10年間で官民合わせて5兆円を投じ、2035年までに国産ジェットの機体の量産や脱炭素動力を搭載した次世代機の開発を目指す方針を打ち出した。

 開発・製造には日本メーカーの技術を結集したい考え。三菱重工の他、ロケットや戦闘機関連技術を持つIHIや川崎重工業、航空機の飛行姿勢を制御するシステムなどに強みがあるナブテスコ、水素エンジン開発で先行する大手自動車メーカーなど幅広く参画を呼び掛ける方針。

 経産省がリベンジに乗り出したのは、1機当たり自動車の約100倍の約300万点もの部材を使う航空機産業は裾野が広く、成功すれば、日本産業の国際競争力向上や質の高い雇用の確保に資すると見ているため。

 ただ、最大の問題は肝心の民間企業側に自信が見られないこと。三菱重工のある幹部は「航空機開発の技術を蓄積できたとの自負はある」としながらも「再チャレンジしようという機運は社内で皆無」と明かす。IHIや川崎重工もMSJの結末を目の当たりにしているだけに、容易に乗れないだろう。

 航空機産業の復興を目指す志は良いとしても、国策プロジェクトを無理押しして、MSJ以上の多額の国民負担を生じさせたり、担い手の民間メーカーの経営を揺るがしたりするような事態は避けたいところ。

 開発頓挫の最大の要因となった欧米当局からの型式証明取得に関わるノウハウも確立されているとは言い難い状況。しかも、次世代機開発では脱炭素対応も大きなハードルとなる。欧米メーカーが開発ではるかに先行する中、日本メーカーに開発を担う実力はあるのか。市場では「MSJの二の舞にならないか」との懸念が広がっている。