沖縄科学技術大学院大学(OIST)は5月2日、「有機電気化学トランジスタ」(OECT)はスイッチを入れると、電流が目的の作動レベルに達するまでにタイムラグがあったが、OECTはオンになるには2段階のプロセスを経る必要があることが原因であることを突き止めたと発表した。

同成果は、OIST パイ共役ポリマーユニットのクリスティーヌ・ラスカム教授、米・ワシントン大学のJiajie Guo大学院生らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の材料科学および材料工学全般を扱う学術誌「Nature Materials」に掲載された。

ペースメーカーや血糖モニターのような体内埋め込み型デバイスには、生物(生化学)とエレクトロニクスの間を橋渡しできる部品が不可欠であり、そうした部品の1つがポリマーで構成されるOECTだ。塩などの生体物質を含む液で満たされた環境で作動し、埋め込み型バイオセンサのようなデバイスに電流を流すことができる。OECTの機能はポリマーの構造、特に柔軟性が重要で、またそのサイズはデジタルデバイスの電子基板と比べると大きいことも特徴の1つである。

OECTは、スイッチを入れれば電流が流れ、切れば電流が遮断されるという、原理的には電子機器のトランジスタのように作動する。より正確には、イオンの流れと電子の流れをつなぐことで作動する仕組みであり、生物とエレクトロニクスを結びつけたような形となっているのが特徴だ。

  • OECTの2段階の電源投入プロセスを示す顕微鏡像

    OECTの2段階の電源投入プロセスを示す顕微鏡像(左の数字は時間)。OECTが最初にオンになると、イオンのダークフロントが「S」のラベルの側から「D」のラベル側へとトランジスタを横切って伝播する。その後、電荷を帯びた粒子がさらに移動してくるにつれて、トランジスタは暗くなり続ける。(c)Nature Materials(出所:ワシントン大Webサイト)

OECTで長らく解明できていなかったのが、スイッチを入れても電流が目的の作動レベルに達するまでにタイムラグがあるというクセだったとのこと(スイッチを切った時は、タイムラグなく電流は即座に低下する)。そこで研究チームは今回、このタイムラグを発生させている原因の解明に取り組むことにしたという。

今回の研究では、ポリマー材料をベースに、電荷に反応して色を変える独自のOECTを開発、研究対象とし、OECTのスイッチを入れたり切ったりした時に何が起こるのかが顕微鏡で詳細に観察され、スマートフォンのカメラで正確に記録された。それにより、OECTのタイムラグの背景には、2段階の化学的プロセスを経る必要があることが明確に示されたという。それこそが、タイムラグの原因だったのである。

OECTのスイッチがオンになった時の第1段階では、イオンの波面がトランジスタを横切る。そして第2段階で、より多くの電荷を持つ粒子がトランジスタの柔軟な構造に侵入し、トランジスタをわずかに膨張させ、電流を作動レベルまで引き上げることが突き止められた。

それとは対照的に、不活性化は1段階のプロセスしか踏まないという。帯電した化学物質のレベルが、トランジスタ全体で一様に低下するだけで、電流の流れが素早く遮断されることが明らかにされた。

  • OECTのワンステップ・ターンオフ・プロセスが示された顕微鏡像

    OECTのワンステップ・ターンオフ・プロセスが示された顕微鏡像(左の数字は時間)。OECTは、電荷を帯びた粒子(完全にドープされた状態)が充填されているため、スイッチオフの瞬間に暗く見える。OECTのスイッチがオフになると、電荷を帯びた粒子の数がトランジスタ全体で急速に減少し、トランジスタの色が明るくなる。(c)Nature Materials(出所:ワシントン大Webサイト)

また、活性化のタイムラグの程度は、ポリマーの配列が規則的であるかランダムであるかなど、OECTがどのような材料でできているかによって異なる可能性があることも発見された。今回の研究ではOECTのタイムラグは数分の1秒だったが、今後の研究では、タイムラグを短くしたり長くしたりする方法を探ることができるかもしれないとしている。

OECTはバイオセンシングのほか、筋肉の神経インパルスの研究や、人工神経回路網を作って脳がどのように情報を記憶し取り出すかを理解するためのコンピューティングの形態などにも使われている。タイムラグの調節(ランプアップ/ランプダウン時間の制御)を可能とするなど、新たな機能を搭載したOECTを開発することで、さらにさまざまな用途で活用できる可能性があるとしている。