宇宙利用の重要性が急速に高まり、官民を挙げた宇宙開発が進んでいる中、東京ビッグサイトでは4月24日から26日まで、宇宙ビジネスに関するすべてが集まる展示会「SPEXA -Space Business Expo-」が開催された。今回が初開催となる同展示会では、ロケットや人工衛星などの設計・開発・製造支援、宇宙空間や衛星データの利活用、さらにその他の宇宙関連サービスなど、さまざまな角度から宇宙利用を画策する企業が出展し、新たなビジネスの萌芽が生まれる場として期待される。

“宇宙に価値を”とのメッセージを掲げ宇宙ビジネスを展開するDigitalBlast(デジタルブラスト)も、SPEXAにブースを出展。同社が研究開発を進める宇宙用小型ライフサイエンス実験装置「AMAZ(アマツ)」および「AMAZ Alpha(アマツアルファ)」のプロトタイプを展示し、そのメカニズムや今後の事業展望を説明した。

  • ライフサイエンス実験装置「AMAZ」

    DigitalBlastが開発するライフサイエンス実験装置「AMAZ」(プロトタイプ)

宇宙でのライフサイエンス実験を可能にする装置を開発中

DigitalBlastが開発を進める小型ライフサイエンス実験装置のAMAZは、宇宙環境と月面重力において植物がどのように成長するのかを実験するためのプラットフォームとして機能する。同装置ではコケや酵母などといった生体のモニタリングを行うことができ、宇宙空間での植物の成長過程を観察・撮影することが可能だ。

同装置の特徴は、無重力空間だけでなく月面や火星などの重力を再現して植物実験を行えること。装置内部には3つのスロットがあり、それぞれ異なる速度で回転させることができるため、異なる重力環境を同時に再現することが可能だという。またスロット内部にはカメラも設置され、撮影した映像は地上へと転送できるため、宇宙の重力下における植物の変化について検証できるとする。

  • AMAZ内部の回転するスロットと培地をモニタリングする小型カメラ

    AMAZ内部のスロットはそれぞれ異なる速度で回転し、さまざまな重力環境を並行して再現可能。また培地となるカプセル内部には小型カメラも設置されている

またAMAZに比べて少し大きいサイズのAMAZ Alphaは、微小重力下における細胞培養に特化した実験装置。培地が用意された3つのスロットは、AMAZと同じくそれぞれで重力環境を変えることができ、同時実験が可能となる。

DigitalBlastの担当者によると、これまでの研究で、宇宙空間では細胞の老化が早く進行することが確認されているといい、言い換えれば“細胞のライフサイクルを短縮させることができる”とする。つまり、地上では長い時間をかけて細胞の老化を待つ必要がある実験でも、宇宙で実験すればその期間が短縮できる可能性が示唆されており、創薬をはじめとするバイオ開発の加速につながることが期待されるという。

  • 細胞実験用途向けのAMAZ Alpha

    細胞実験用途向けの「AMAZ Alpha」

AMAZの初打ち上げは2025年となる見込み

DigitalBlastは2022年11月、米・Axiom Spaceとの間で業務委託契約を締結し、AMAZを2024年内に国際宇宙ステーション(ISS)へと設置し運用するという計画のもと、準備を進めてきたとのこと。しかし担当者によると、宇宙機特有の安全設計に対する要求の高さから、AMAZのフライトモデル開発に遅れが生じたため、打ち上げは2025年以降にずれ込む見通しとなっているという。しかしながら、Axiom Spaceとの契約により打ち上げの枠は確保できているため、AMAZの完成に向けて入念に準備を進めていくとする。

また同社は、コケや酵母を栽培するAMAZからの発展として、葉物野菜などを宇宙空間で栽培する装置「TAMAKI」の開発に向けた基礎研究を行っている最中とのこと。この装置は、宇宙飛行士の食料となる野菜を宇宙空間で育てるという未来を見据えたもので、学術機関とも連携しながら研究を進めているという。

さらに先の将来的な構想として、月面に基地を展開し、そこで食糧生産なども行うことで長期的な滞在が可能になる未来を掲げるDigitalBlast。持続可能な宇宙滞在に不可欠なバイオテクノロジーの実現に向けて、同社の実験装置が大きな役割を担う時は、そう遠くないかもしれない。