電通は、メディアビジネス、コンテンツビジネスの進化と新しい創造・開発に取り組む専門組織として「メディア・コンテンツ・トランスフォーメーション室(MCx室)」を新たに設置したことを発表した。
本稿では、MCx室 室長の林真哉氏、エグゼクティブ・メディアアンドデジタル・ディレクターの布瀬川平氏に、新設されたばかりのMCx室の組織体制や立ち上げの背景について聞いた。
社内プロジェクトから組織化した「MCx室」
「MCx」は、2019年に電通のメディア・コンテンツ領域(テレビ、ラジオ、新聞、出版など)を横断する社内プロジェクトとして発足したもので、MCx室という形に組織化されたのは2024年1月になってからのこと。
MCx室はメディア部門、コンテンツ部門、スポーツ部門、デジタル部門、ソリューション部門、クリエイティブ部門の専門人材で構成され、他の部門に籍を置きつつ、MCx室の取り組みにも参画しているバーチャル局員も含めると総勢80人ほどの規模の組織となっている。
「社内横断プロジェクトから組織化した1番の理由は、劇的な環境変化が生じる可能性にリスクを感じたからです。横断プロジェクトのままだと、所属している組織がメインの業務になってしまい、業務に影響を与えない範囲でしかプロジェクトに参加できませんでした。そのため組織化し、取り組みを加速度的に進めることが重要だと考えました」(林氏)
このような背景から組織化されたMCx部署には、4つの目的に応じた5つの部署が設置されている。
1つ目は、プランニングの高度化を目指したデータ環境整備、ソリューション開発を行う「メディア・コンテンツ・データ開発部」、2つ目は顧客接点としての広告ビジネスを高度化することで顧客企業の事業へ貢献する「AX業務推進部」。
そして、メディア企業・コンテンツ・スポーツ各社との新規事業開発、メディア・コンテンツ・スポーツ企業各社のBX支援を行う「BX業務推進部(1・2部)」、メタバースなどの3Dメディアを新たな顧客接点として捉えたビジネス開発を進める「イマーシブメディア開発部」という5つの部署だ。
これらの部署を通じて、「広告の高度化」「新しいメディアビジネスの創出」「コンテンツビジネスの改革」「新しい顧客体験の場の提供」という4つを達成するのがMCx室のミッションとなっている。
電通が取り組む4つの注力事業領域
「広告に関する課題として『メディアと広告主』『メディアと生活者』という2つの視点があります。メディア企業と広告主の間における『広告効果の可視化と改善』という課題に対しては、メディア・コンテンツ・データ開発部とAX業務推進部が、メディア企業と生活者の間における『視聴者が望むコンテンツをどのように届けるか』という課題に対しては、BX業務推進部(1・2部)とイマーシブメディア開発部が担当しています」(布瀬川氏)
この「メディアと広告主」「メディアと生活者」という2つの視点を通して、5つの部が相互に連携することで取り組みを行っているという。
ここまでに挙げられた「AX」や「BX」という言葉は、複雑化・高度化する企業課題に対応するために電通が掲げている新たなコンセプト「Integrated Growth Partner」の中でも、同社が4つの注力事業領域に設定しているものだ。
「AX(Advertising Transformation)は、広告の高度化・効率を実現する広告変革領域、BX(Business Transformation)は、事業成長・企業を実現するビジネス変革領域を指します。MCxの部署としては、特にこの2つがフォーカスされていますが、生活者基点という意味ではCX(Customer Experience Transformation)、DX(Digital Transformation)も含め、4つの領域すべての活用を視野に入れ、ソリューション開発やコンサルティングを行っていきたいと考えています」(林氏)
AIの活用で適切なタイミングに広告を投下する
2024年1月に新設されたMCx室だが、上記したように、2019年から社内プロジェクトとして取り組みはスタートしている。布瀬川氏はこれまでの取り組みの一例として、天候連動など広告主の適切なタイミングで広告を展開する取り組みと、食体験IP(Internet Protocol)×NFT(非代替性トークン)での体験価値向上を目指す「ひとり飯をみんなで楽しむプロジェクト」を紹介した。
1つ目の天候連動など広告主の適切なタイミングで広告を展開する取り組みは、気象データを活用することで広告マーケティングの高度化を実現するというものだ。
「アイスクリームを例に挙げると、暑い日に多く買われるアイスクリームの広告は、当然暑い日に投下することが重要になります。またずっと暑い日よりも、気温差が激しい日に需要が伸びるため、同じコストでもどのようなタイミングで広告を出すかを考えることが重要になります」(布瀬川氏)
これまでは、暑さや寒さといった気象的な要因は、直前にならないと分からず、またテレビCMにおいては直前の差し替えが困難であったが、AIを活用しテレビ広告枠の柔軟な運用を可能にする「RICH FLOW(リッチフロー)」を開発。簡単に適切なタイミングでの広告の差し替えが実現できるようになったのだという。
この取り組みはテレビ広告以外でも、屋外広告に使用されるビジョンでも同じことができるため、活用の場が広がってきているそうだ。
また、布瀬川氏が2つ目に紹介した、ひとり飯をみんなで楽しむプロジェクトは、テレビ東京、扶桑社とともに行っているもので、ハードボイルド・グルメ漫画「孤独のグルメ」の世界観を受け継いで「ひとり飯」仲間を世の中にどんどん広げていこうとするプロジェクトだ。
2022年12月2日〜2023年1月31日に行われた第1弾では、期間中に孤独のグルメシリーズに登場した店舗のうち指定の対象店舗で飲食をした人に、オリジナル デジタルトレカをプレゼントするキャンペーンを行った。
「NFTを活用してデジタル版のスタンプラリーのようなイベントを開催することで、ファンが多い『孤独のグルメ』というコンテンツを、少し違う形で楽しんでもらうというチャレンジングな広告の形として取り組みを行いました」(布瀬川氏)
MCx室はこれまで上記した2点の以外にも、テレビとデジタルを統合し広告効果を可視化するメディアの統合ダッシュボード「MIERO」の提供や、メディア横断でメディア(広告)接触に対するエンゲージメントをスコア化するサービスの開発など、さまざまな形で「広告をトランスフォーメーション」している。
現在もいくつかの取り組みに着手しており、中には特許を取るようなものや、新しい事業を始めるようなこと取り組みもあるという。今後に期待が寄せられそうだ。
最後に林氏に、MCx室としての今後の展望を聞いた。
「2040年問題に代表されるように、国内における人口動態の変化による産業構造の大きな変化に加え、地政学的な経済安全保障問題、プラットフォーム企業による垂直統合など、変化へ対応するスピードが求められています。MCx室は、メディア・コンテンツビジネス市場でこうした変化に対応するため、dentsu Japanの各所にある機能を有機的に組み合わせ、より高度なPDCAの実現と、皆さまの事業変革のお手伝いを行っていくプロデュース機能を担う組織を目指していきます」(林氏)