TSMCは4月18日に2024年第1四半期決算説明会を開催、C.C.Wei CEOが、同社の2024年の業績見通しは従来通り(21〜25%程度成長)としながらも、2024年の半導体業界全体の成長率およびファウンドリ業界全体の成長率予測を下方修正する発言をした。これにより証券市場に動揺が走り、半導体関連株が全般的に下落することとなった。

Wei氏は決算説明会で、以下の4点についての説明を行った。

  1. 2024年半導体市場全体の見通し
  2. TSMCのAI関連事業の将来展望
  3. TSMCの海外進出状況
  4. 2nmプロセスの量産に向けた状況

2024年半導体市場成長見通しを下方修正

2024年についてTSMCでは、マクロ経済および地政学的な不確実性が継続しており、消費者心理と最終製品市場の需要が冷え込む可能性があることから、メモリを除く半導体市場も全体的に従来予測よりも穏やかで緩やかな回復になることが予想されるという。

具体的には、メモリを除く2024年の半導体市場全体の見通しを、従来の前年比10%以上増の予測から、新たに前年比約10%増とわずかだが下方修正した。またファウンドリ業界全体の見通しも、以前の20%増から10%半ばから後半へと下方修正した。どちらも在庫が急増しているためだが、その中にあってもTSMCは先端プロセス需要を背景に健全な成長を維持できる見通しを示しており、通年の売上高成長率がドルベースで同20%前半から半ばとなるとのこれまでの予測を維持している。

AI半導体はCAGR50%で成長

AIの進化に伴い、より高性能は半導体が求められるようになっており、それを実現する最先端プロセスが求められている。先端プロセスおよびパッケージング技術を提供できるTSMCに対するそうした顧客からの需要は高く、同社はほぼすべてのAIイノベーターと協力関係にあることを強調している。こうした背景から、2024年におけるAIサーバプロセッサからの収益貢献度は前年比2倍以上と見込まれ、2024年通年の売上高の10%前半を占める規模と予測している。

またAI半導体(主にプロセッサ)は、今後5年間の年平均成長率(CAGR)が50%と見込まれ、2028年までにTSMCの収益全体の20%以上を占める規模に成長することも予想。AIサーバプロセッサが同社のHPCセグメントのもっとも強力な牽引力となると予想しており、この押し上げこそが、半導体業界全体と比べて高い成長率を維持できる根拠となるとしている。

海外の生産コスト高は補助金や価格転嫁で利益確保を推進

TSMCは、今後も世界のロジックIC業界で信頼されるテクノロジーと生産のプロバイダーとなることを目指しており、HPCおよびAI関連需要を踏まえると、米国顧客の成長をサポートすることは重要であり、そうした顧客の成長可能性を拡大させるために世界的な製造拠点の拡大は戦略的に重要としており、例えば米アリゾナ州の拠点は、米国顧客からの強いコミットメントとサポートを受けており、3つのファブが設置される。各ファブともに、⼀般的なロジックファブの約2倍のサイズのクリーンルームエリアが敷設されるという。すでに第1棟では、4nmプロセス(N4)を採用したエンジニアリングウェハの生産を2024年4月より開始、2025年上半期からの量産に向けて順調に進んでいることを強調する。

また、2棟目のファブは、3nmプロセスに加えて、AI関連の需要をサポートすることを目的に2nmにも対応させるように計画をアップグレード。2028年からの量産開始を予定しているほか、2nm以降の微細プロセスに向けた3棟目のファブの建設も決定。2020年代末までに生産を開始することを計画。量産が開始されれば、台湾の各工場と同レベルの品質と信頼性を提供できるようになるとしている。

一方、日本では熊本工場(JASM)の開所式を2月に実施。12/16nmおよび22/26nmプロセスを用いて2024年第4四半期の量産開始を予定している。また、パートナー各社と協力して、民生、自動車、産業およびHPC向けの顧客サポートを目的に、40nm、12/16nm、6/7nmのプロセス技術を採用した2番目の工場建設も決定しており、こちらは2024年後半より建設を開始し、2027年末からの生産開始を目標としている。

このほか、欧州ではパートナーと独ドレスデンにて自動車および産業向け特殊プロセスを採用した工場建設を2024年第4四半期に開始する計画としている。

TSMCでは、台湾域外での半導体製造について、顧客ニーズと必要なレベルの政府支援に基づいて行われるとしているが、背景として製造コストが高くなる課題があるとしている。そのため同社では、地理的な柔軟性を反映して戦略的に価格設定することで、コストギャップを管理し、台湾以外で生産する場合、それぞれの地域の状況に応じた割り増し料金とすることを示唆しているが、それを政府の補助金や税制優遇によって相殺されることも示唆しており、そうした取り組みを通じて、株主に約束している「53%以上の長期粗利率」と「25%を超える持続可能なROE(自己資本利益率)」の達成を進めるとしている。

2nmプロセスは当初計画通り2025年からの量産へ

TSMCが開発を進めている2nmプロセス(N2)について、同社はほぼすべてのAIイノベーターが製造委託を行うこととなるとの見通しを示しており、提供開始から最初の2年間のテープアウト数は3nmおよび5nmの時よりも多くなると予想している。

なお、同社では2nmプロセスより、従来のFinFETからナノシートトランジスタ(Gate-All-Around)へと構造を変更することで、密度とエネルギー効率の向上を図る予定。GAAを採用したN2の開発は順調とのことで、デバイスの性能と歩留まりは計画通りまたは計画を上回っているとしており、そのランププロファイル(習熟曲線に沿った歩留まり向上)は順調に立ち上がったN3と同様の動きを見せており、2025年の量産に向けて順調に進んでいるとしている。