心の拠り所を求め、論語や古典を勉強するリーダーが増えている
今日ほどリーダーの質が問われている時はない。政治でも、企業・団体でも、日本のリーダーの質が劣化していると感じるのはわたしだけではないだろう。
わたしが経営者の集まりに参加すると、皆さん、論語や古典を勉強する人が増えている。これはリーダーが心の拠り所を求めている証ではないか。そう考えて、『才徳兼備のリーダーシップ』(時事通信社、2019年刊)の続編で刊行したのが本著である。
論語は読めば読むほど味わい深く感じる。主にリーダー論だが、突き詰めれば、人としてどう生きるか。人の内面そのものを磨かなければリーダーにはなれないし、地位や立場が上になればなるほど、もっと努力しなければならないということを教えてくれる。
経営者は皆、自分の会社をいかに発展させるか、そして、どうすれば風通しのいい職場になるかということに悩み、努力している。
会社の健全性は、損益計算、資産、信用の3つが成り立って初めて成立する。ところが、最近の経営者を見ていると、目先の利益ばかり追いかけて、長期的な視点がおろそかになっているような気がする。
しかし、長期的に経営を考えるというのは大事なことだ。仮に赤字になっても、社会的な信用があれば必ず会社は立ち直る。
わたしは部下から意見が上がってこないとこぼすトップを何人も見てきた。しかし、部下の意見に耳を傾ける度量の大きなトップの下でこそ、部下は育ち、組織が活性化していく。一方、度量が小さく、部下の意見を聞こうとしないトップの下では部下は育たない。組織が良くなるのも、悪くなるのも、原因を辿ると全てはトップの責任である。
わたしが東芝時代から尊敬してやまない経営者が土光敏夫さんだ。
1965年、経営再建を託されて東芝社長に就任した土光さんは、入社3年目のわたしが勤務していた川崎のトランジスタ工場へ、一人で視察に訪れた。トップが工場に来るのは珍しく、土光さんは従業員を前に「皆さん、2倍働いてください。わたしは10倍働きます」と宣言した。
この言葉にわたしは感動、涙を流している女性従業員もいた。言葉には、発した人の人格が出てくる。この人は口先だけの人ではない。皆の心を奮い立たせた土光さんの言葉を聞き、わたしも「この人についていこう」と思ったものだ。
歴史上の人物で「さん」付けで呼ばれるのは、西郷隆盛と土光さんだけだと思うが、これはまさに土光さんの人間力である。
やはり、会社を支えてくれるのは従業員だ。企業は顧客・従業員・株主・地域社会など様々なステークホルダーに支えられているが、今は株主偏重になってはいないか。もっとトップは従業員を大事にし、厳しくも、温かい目を持ってほしい。