東京工業大学(東工大)は4月17日、太陽電池材料として注目される「有機-無機ハイブリッドペロブスカイト」に分子イオンを添加することによって新規化合物を合成し、これまで知られていなかった一連の派生構造が形成されることを明らかにしたと発表した。
同成果は、東工大 物質理工学院 材料系の大見拓也大学院生、同・大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の東正樹教授(東工大 自律システム材料学研究センター(ASMat)兼任)、同・山本隆文准教授、同・谷口航大学院生、同・大学 化学生命科学研究所(ASMat兼任)の福井智也助教、同・福島孝典教授、カナダ・ビクトリア大学の春田優貴博士研究員らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する材料と化学・工学・生物学などとのインタフェースに関する全般を扱う学術誌「ACS Materials Letters」に掲載された。
ペロブスカイト型構造はABX3(一般的にAとBは陽イオン、Xは陰イオンが占める)の組成を持つ化合物に現れる結晶構造。Xに酸素が入ったペロブスカイト型構造を有する酸化物は、「BX6八面体」が頂点共有で3次元的につながったネットワークと、その間隙を占めるAからなる。ペロブスカイト酸化物では、酸素欠陥(δ)が規則的に配列したさまざまなペロブスカイト派生構造(ABO3-δ)が発見されており、イオン伝導、固体触媒、超伝導など幅広い分野で応用されている。そしてそのような派生構造では、BX6八面体のつながりを変えることで光学特性を制御することが可能。
一方で、ペロブスカイト酸化物で盛んに研究されてきた、欠陥が規則的に整列する化合物系列は、有機-無機ハイブリッドペロブスカイト化合物ではこれまで報告がなかったという。そこで研究チームは今回、ペロブスカイト「FAPbI3」(FA=CH(NH2)2)に含まれているヨウ化物イオン(I-)の一部を、別の分子性のイオンに置き換えることで、新しい層状ペロブスカイトの創出を目指すことにしたとする。
今回の研究では、FAPbI3のヨウ化物イオンの一部が、一価の分子性の陰イオン「チオシアン酸イオン」(SCN-)に置き換えられた。その結果、新しい層状ペロブスカイト化合物「FA4Pb2I7.5(SCN)0.5」の合成に成功したという。
単結晶を用いたX線結晶構造解析の結果から、同化合物では、ペロブスカイト構造の基本骨格を維持したまま、SCN-が同構造に柱状の穴(欠陥)を開け、その穴が層状に整列していることが解明された。これは、同構造中の三次元に連なったPb-I結合に対し、SCN-がキャッピング剤として機能することで、柱状欠陥の形成に寄与したと考えられるとする。
研究チームでは、昨年にも新規化合物「FA6Pb4I13.5(SCN)0.5」を報告しているが、今回の化合物も含め、新しいペロブスカイト派生構造「FAn+1Pbn-1I3n-1.5(SCN)0.5」として統一的に記述することができるという。n=∞ならペロブスカイトFAPbI3、n=5なら昨年の新規化合物、n=3なら今回の化合物となる。ここで1/nが柱状欠陥の存在量に対応することから、SCN-の導入量により構造を制御できることが明らかにされた。
加えて、この新しいペロブスカイト派生構造を持つ化合物系列では、欠陥量が増加する(nが小さくなる)と光学特性に寄与するPbI6八面体のつながりが途切れ、光学バンドギャップが大きくなることも判明。また今回の化合物は、PbI6八面体の二次元的なつながりに対応して、紫外線照射下で高輝度の赤色発光が示されたという。このことから、欠陥工学に基づくペロブスカイト探索をさらに推進することで、光機能材料としての発展も期待できるとした。
欠陥の整列に基づいた構造設計はこれまで、ペロブスカイト酸化物において盛んになされていたが、有機-無機ハイブリッドペロブスカイト化合物で系統的に欠陥の整列を制御した例はなかったとする。昨年と今回報告された化合物系列では、1/nが柱状欠陥の存在量に対応するという法則が発見された。今後はほかの整数でも新規構造が見つかることが期待されるとともに、ほかの元素や分子の組み合わせでもこの法則に基づいて次々に新規物質が見つかると期待できるとしている。