広島大学は4月16日、構造モデリングに基づく改変により、同大学が開発した純国産ゲノム編集ツール「Zinc Finger(ZF)-ND1」の高機能化に成功したことを発表した。
同成果は、広島大 ゲノム編集イノベーションセンターの片山翔太特任准教授、同・山本卓教授、広島大学 医系科学研究科の野村渉教授、産業技術総合研究所の渡邊真宏主任研究員、同・加藤義雄グループ長らの共同研究チームによるもの。詳細は、さまざまな分野の基礎から応用までを扱う学際的な学術誌「Advanced Science」に掲載された。
ゲノム編集ツールは遺伝子細胞治療のための強力なツールである。現在は、第3世代のCRISPR-Casが最も多く利用されているとされ、その次に利用されているのが第2世代の「TALEN」(2010年開発)とされる。そのほか、1996年に開発された最初(第1世代)のツールであるため、現在ではあまり利用されていないが「ZFN(Zinc Finger Nuclease)」もある。
CRISPR-CasやTALENは作製の難易度が容易であり、所要時間も数日で済み、標的配列の認識も前者が20塩基、後者が30~40塩基といった具合。それに対しZFNは、難易度はかなり困難で、所要時間は2か月、標的配列の認識も18塩基といった点で世代の差による性能差が出ており、それらが現在ではあまり利用されていない要因となっている。
しかし、ZFNには大きな利点がある。CRISPR-CasやTALENの基本特許が2030年以降まで継続しているため、しばらくは医療分野への使用には高額なライセンスフィーとして年間100億円以上が必要なのに対し、ZFNは基本特許がすでに切れているので現在はライセンスフリーで使用できるという点だ。
広島大では以前に、ZFNのDNAを認識する酵素ZFに、独自に開発したDNA切断酵素「FirmCutND1」を組合わせることにより、純国産のゲノム編集ツール「ZincFinger-ND1」を開発。しかし、機能的なZFNを構築し、そのゲノム編集効率を向上させることが非常に困難だったという。
ZFNの作製は、従来、無作為に並べ替えたZFから標的DNAに結合するZFを取ってくるスクリーニングによるものが主流だった。しかし、機能的なZFNを作製するには2か月ほどかかるなど、かなりの時間と労力を必要とするものだったという。また、ZFを遺伝子工学的に連結させる手法「Modular Assembly」も考案されたが、3-finger ZFN(ZFを3つ連結)を作製しても、機能的なZFNが得られる確率は5%程度であり、作製効率が悪く使い物にならなかったとする。
このような状況に対して研究チームは今回、Fingerの数が少ないことで認識する塩基数が少なくなり、機能的なZFNの作製効率が低いことにつながっていると考察。そこで今回、Modular Assembly法を用いてFingerの数を倍にした「6-finger ZF-ND1」を開発し、認識する塩基数を多くすることにしたとする。その結果、作製された10個のZF-ND1の中で、2個のZF-ND1でゲノムDNA切断活性を確認、つまり、20%の確率で機能的なZFNを得ることに成功したという。
さらにZF-ND1の機能を高めるべく、次に構造モデリングの手法(AlphaFold、Rossetta、Cootによる分子モデリング)が採り入れられ、ZFとDNAの相互作用がモデリングされた。まず、DNAに結合する天然の3-finger ZFである「Zif268」のDNAとの相互作用のモデルとの比較が行われ、5個の変異導入候補が同定された。続いて、Zif268のDNA sugar-phosphate backboneと結合するアミノ酸との比較が行われ、4個の変異導入候補が同定された。合計9個の変異候補を1つ1つ機能的なZF-ND1に導入したところ、3個の変異でゲノムDNA切断活性の向上が見られたとする。「V109K」変異においては、5%の切断活性の向上が見られ、構造モデリングに基づく、ZF-ND1の高機能化が実現された。
高機能化したZF-ND1は、ex vivo(がん治療や再生医療用の細胞作り)/in vivo(生体内)ゲノム編集治療に用いることができるものと考えられるとする。広島大ではこれまでにも、「Platinum TALEN」というゲノム編集ツールを独自に作成し、基礎研究において活用してきたが、今回の高機能化したZF-ND1を活用することにより、高額なライセンス料を回避できるため、ゲノム編集の産業利用への一助となることが期待されるとしている。