代表的なバイオプラスチックであるポリ乳酸で、課題だった温度の低い環境下での生分解性と伸びを改善できる手法を開発したと、産業技術総合研究所(産総研)などのグループが明らかにした。ポリ乳酸に乳酸と3-ヒドロキシブタン酸の共重合体(LAHB)を混ぜることで克服。最適なブレンド比などが解明されれば、高温高湿下で分解されるポリ乳酸が海洋で分解できる道が開け、海洋プラスチックゴミ問題の解決にも期待できるという。
石油由来のプラスチックの代替として、バイオプラスチックの開発が進む。バイオプラスチックには、生物由来で再生可能なバイオマスプラスチックと、微生物の働きで最終的に水と二酸化炭素に分解される生分解性プラスチックが含まれる。
ポリ乳酸は、植物由来の糖を乳酸菌で発酵してできる乳酸を重合して製造され、生分解性も併せ持つバイオプラスチック。ポリプロピレンやポリエチレンテレフタレート(PET)と物性が似ており、これら石油由来プラスチックに替わる材料として世界的に生産されている。しかし、伸びにくくもろい。堆肥化施設など温度60度以上、湿度60%以上の高温高湿下でなければ分解しないという課題もある。
産総研マルチマテリアル研究部門の今井祐介研究グループ長(高分子科学)は、神戸大学科学技術イノベーション研究科の田口精一特命教授らが遺伝子組み換え大腸菌により2008年に世界で初めて生合成したことを発表したLAHBに着目した。LAHBは海洋中、土壌中などさまざまな環境での生分解が確認されている。ポリ乳酸と同様に乳酸を含んでおり混ぜやすい。製品化を見据えて同じバイオプラスチック材料を使う方が良いと考えた。
今井研究グループ長らは、ポリ乳酸とLAHBを溶媒に入れて混ぜた。できたフィルムは透明で、両者がナノレベルで混ざっていた。含まれる乳酸と3-ヒドロキシブタン酸の割合が違うLAHBを4種類用意し、それぞれポリ乳酸とLAHBの比を3段階に変えて、伸びや生分解性の変化を調べると、乳酸とブタン酸が4対6のLAHBをポリ乳酸に20%加えたもので、伸びが200%(長さでは3倍)以上に改善した。
生分解性については、LAHBをブレンドしたポリ乳酸を海水中に置き、有機物が微生物によって分解されるときに消費される酸素量を測るBOD(生化学的酸素要求量)試験を行った。LAHBだけが分解した場合の理論値である生分解度約22%を超え、停電で実験が終了した155日までに生分解度が50%近くまで達した。
高温高湿でない海水中でポリ乳酸が分解される仕組みについて今井研究グループ長は「まず表面にでているLAHBを微生物が分解することで、プラスチック中には微生物の入り込んだたくさんの細かい穴ができたような状況になる。LAHBをほぼ分解し終えた微生物は、周囲に残っているポリ乳酸も分解しようとしているのではないか」と話している。
今後は、ポリ乳酸の分解性が高くなるLAHBの混合比やナノレベルの構造を調べ、バイオ資源由来プラスチック材料としての実用化を目指す。
研究は神戸大学、カネカと共同で行い、成果はオランダの科学誌「インターナショナル ジャーナル オブ バイオロジカル マクロモレキュールズ」の電子版に3月19日掲載された。
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