国立成育医療研究センター(NCCHD)は4月12日、「なぜ男性の方が女性より平均身長が高いのか」という課題の解決に取り組んだ結果、成長遺伝子「SHOX」の発現量の性差が、男女の平均身長の差の一因となっていることが示唆されたと発表した。

同成果は、NCCHD 分子内分泌研究部の深見真紀部長、同・服部淳上級研究員、NCCHD 小児外科系専門診療部の関敦仁統括部長らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

  • 今回の研究成果の概要

    今回の研究成果の概要(出所:NCCHDプレスリリースPDF)

女性より男性の方が平均身長が高いことは誰でも知っていることだが、具体的にどのぐらい差があるかというと、日本人の場合は、成人(18歳以上)の平均身長は、厚生労働省が同省健康局の資料「国民健康・栄養調査」をもとに作製した「厚生統計要覧(令和4年度)」によれば、2019(令和元)年時点で男性が168.8cm、女性が155.5cmとなっており、約13cmの差が存在している。

同じ2019年で年齢別に見ると、12~13歳ぐらいまでは男女差はあっても数cm、場合によっては女性の方が高い年齢もあるが、14歳からは男性の平均身長が一気に伸び、18歳時点では男性が171.1cm、女性が156.0cmとなっている。身長の伸びが頭打ちとなる年齢は男性が17歳ごろ、女性が15歳ごろで、女性の方が若干早い。成長する時期や伸びる割合に男女差があるということは、ヒトの身体に成長の仕組みとしてそれが組み込まれていることは想像に難くない。しかし、具体的にどのようなメカニズムで平均身長の男女差が生じるのかはわかっていなかったことから、そこで研究チームは今回、その謎を調べることにしたという。

今回の研究では、男女のヒザや指の軟骨組織を対象に、骨の成長を促すタンパク質を作る遺伝子(成長遺伝子)の1つであるSHOXの発現量が解析された。その結果、女性に比べ男性では同遺伝子の発現量が多いことが明らかにされ、それが平均身長の差の一因となっていることが示唆されたとした。

次に、男女のSHOX周辺におけるDNAの「メチル化」状態の比較が行われた。なおDNAのメチル化とは、「メチル基」と呼ばれる小さな化学基がDNAに結合することをいう。これが生じると、多くの場合、その遺伝子から作られるタンパク質の量が変化することが知られている。そして比較の結果、女性では「X染色体不活性化」という機構により、SHOXの発現が抑制されていることが示唆されたとした。X染色体不活性化とは、性染色体であるX染色体が複数ある場合(女性はXX)、1本だけが活性のまま残り、それ以外では染色体の構造変化が生じて遺伝子の発現が抑制されることをいう。男性の場合、性染色体はX染色体とY染色体が1本ずつのため、どちらのSHOXも不活性化の影響を受けることがないのである。

これまでSHOXは、男女の軟骨組織で同じように働いて骨を伸ばしていると信じられてきたとする。しかし今回、男女のヒザや指の軟骨組織の遺伝子発現量を詳細に解析したことにより、はじめて男性の軟骨組織では女性の軟骨組織よりもSHOXの発現量が多いことが解明された。今回の研究成果は、長年謎のままだった「平均身長の男女差」を理解する大きな一歩となるとしている。