農林水産省は、すべての事業で補助金交付の条件として環境負荷低減の取り組みを義務化する「クロスコンプライアンス」を導入する。2024年度から、肥料の適正な使用や害虫・雑草の防除など各項目の実施を確認するチェックシートの提出を試行的に求め、27年度に全面実施したい考えだ。世界的に環境配慮型農業への転換が求められており、生産者に意識改革を求めた形だ。
ただ、世界では急進的な政策転換に対する逆風も強まっている。欧州連合(EU)は、30年までに化学農薬の使用を半減することや、農地全体に占める有機農業の比率を25%に拡大することを盛り込んだ「ファーム・トゥ・フォーク(農場から食卓まで)」戦略を打ち出したが、これに反対する農業者らのデモが欧州各地で繰り広げられている。
日本も環境負荷削減を推進する「みどりの食料システム戦略」で、50年までに有機農業の面積を全農地の25%に相当する100万ヘクタールに拡大する目標を掲げている。EUに比べると、穏健な目標設定ではあるものの「収量減少やコスト増などの課題があり、現実的には難しい」(農業系ベンチャー)といった声がくすぶる。
日本と米国は、厳格な規制を推進する欧州が国際的な議論を主導することを警戒し、2国間対話を設置し、今年2月に事務レベルで初会合を開いた。
ただ、米国では秋の大統領選挙で前職のトランプ氏が再選する「もしトラ」が無視できないリスクとして浮上している。
目下、農業分野で日米間に大きな懸案はないが、「極端な言動で人気を取ってきた人」(政府関係者)だけに警戒感が広がっている。地球温暖化を否定し、環境保護思想を敵視するトランプ氏が返り咲けば抜本的な政策転換は必至。
大統領選の行方は予断を許さないが、有機農業の推進には不透明感が漂っている。