TSMCが4月3日に台湾で発生したマグニチュード7.2の花蓮地震の後、迅速に製造ラインの復旧を進め、稼働率などが地震前の状態に戻っていることなどを複数の台湾メディアが報じている。
それらによると、半導体製造装置サプライヤ筋の情報として、TSMCの迅速な復旧は1999年9月21日に発生した921大地震の後に採用された包括的な地震管理対策によるものだという。また、その際の経験から、長年にわたって段階的に地震に対する措置の強化を進めてきており、ダンパーによる工場への耐震構造の採用や製造設備の補強、地震警報シャットダウンシステムの導入、徹底した従業員SOP(標準作業手順)トレーニングの実施、サプライチェーン全体にわたる緊密な協力体制の構築などが含まれるという。
こうした取り組みを含め、同社では、“人的被害ゼロ、工場の短期復旧、顧客業務への影響軽減”を目指しており、台湾の半導体業界のエコシステムを相互に結びつけることで、同社のサプライチェーンの全セグメントからの支援や援助の迅速な利用につなげ、通常業務への復帰を促進する体制構築を進めてきたという。
これらの取り組みの結果、台湾域内の北部から南部に至るさまざまな製造施設において、地震が発生して操業が一時停止しても、操業を可及的速やかに再開し、製造を軌道に乗せることができる仕組みができあがっており、今回の地震でも多くの工場の製造装置が自動停止したものの、地震発生から10時間以内に装置復旧率は70%を超えた模様である。特に、最先端の3nmプロセスを担当するFab18のような最新ファブでは、復旧率は80%を超えたという。さらに4月5日までに、台湾内のウェハファブのほとんどの製造装置がその機能のほとんどを回復したとするほか、EUV露光装置のような重要かつ高価な装置への被害も報告されていないという。
地震発生後にTSMCは主要顧客の注文が流出したといった噂を払拭することを目的に、製造業務はすでに通常に戻っており、3/2nmプロセスの生産リストに載っている顧客への影響はないとしたほか、2024年の売上高見通しをドル基準で前年比21%から26%の増加という好業績を見込んでいることを明らかにしている。
また、台湾以外でも日本の熊本では、第1工場が間もなく稼働するほか、第2工場での6nmプロセスの採用の決定と、その後も第3工場ならびに第4工場の建設を検討している。さらに、米国アリゾナ州では2nmプロセスを採用する第3工場の建設を決定したことも明らかにしており、生産リスクを分散させる取り組みも進めることで、失注のリスクを減らす取り組みを加速させている。
なお、台湾Digitimesによると、「Intelのファウンドリサービスはコストが高いことから、今後数年間のうちにTSMCに対抗して大型受注を獲得するのは難しい。現在のIntelのファウンドリサービスの受注のほとんどは、リスク分散への取り組みと米国政府からの支援による小規模なもの」と見られるという。そのため、大地震が発生したにも関わらず、今後ともTSMCの先端プロセス分野で優位に立ち続けるものと見られるとしている。