北海道大学(北大)、岡山大学、科学技術振興機構(JST)の3者は4月9日、最短でも50μs程度かかるプロジェクタ用の表示デバイスなど、複雑なパターンの照明を可能とする電子デバイスとして活用されている「空間光変調器」(SLM)のパターン切り替え速度を、その約1500倍となる0.03μsで切り替え可能な超高速光パターン照明手法を開発したことを共同で発表した。
同成果は、北大 電子科学研究所の渋川敦史准教授、同・三上秀治教授、岡山大 学術研究院医歯薬学域(薬)の須藤雄気教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。
SLMは、レーザーなどの入射光の波面形状を調整することで、入射光の分岐や歪みの補正など、レーザーの照射パターンを自在に制御できる装置で、複雑なパターンの照明を可能とすることから、プロジェクタ、三次元ディスプレイ、生体計測など、さまざまな分野で広く活用されている。同装置を使ってレーザー光の複雑な照明パターンを高速に切り替えることで、たとえば生体計測の高速化や大規模化、複雑な三次元造形が求められる金属プリンタにおける生産効率の向上などが期待されている。
しかし、SLMは電子デバイスとしての特性上、照明パターンの切り替えを高速に行えないことが課題だという。現行の市販SLMとして、液晶型SLMやデジタルミラーデバイスなどがあるが、それらは冒頭でも述べたように最短でも50μs程度であり、原理的にこれ以上の高速化は困難な状況である。そこで研究チームは今回、SLMの構成を根本的に見直すことでその壁を打ち破り、高速化の実現を目指すことにしたとする。
今回の研究では、まず一次元SLMの高速化が図られた。デジタルミラーデバイス上において、走査ミラーにより細長いレーザービームを走査(スキャン)するという独自の工夫により、照明パターンを単純な一次元形状(直線状のバーコードのようなパターン)に限定する代わりに、従来よりも圧倒的短時間で済む高速パターン切り替えが実現された。
そしてもう1つの工夫が、一次元照明パターンから三次元照明パターンを生み出す「すりガラス」を組み合わせた点。すりガラスを用いて一次元照明パターンのレーザー光を四方八方に散乱させ、散乱の結果生じるパターンから逆算して一次元照明パターンを決定することで、高速切り替えを実現するわりに一次元に制限されていた独自開発SLMの照明パターンの形状を、三次元空間に拡張できるようになったとした。
今回開発された手法のパターン切り替え速度の確認のため、まず最も単純なパターンである光スポット(レーザー光をレンズで集光した時などに生じる光の小さな点)のオン/オフにおける変化の観察が行われた。すると、光スポットがオン/オフが約0.03μsで繰り返されていることが確認され、1秒間に3000万回ものパターン切り替えが可能になったとのこと。
さらに、2個の光スポットで構成される照明パターンを0.03μsで切り替えられること、16個の光スポットで構成される高速パターン照明が可能であることなども確かめられ、超高速パターン照明の実証に成功したという。
今回の手法は、より空間解像度の高いデジタルミラーデバイスと、より高速な走査ミラーを用いることで、パターン切り替えに要する時間を0.01μs程度まで短縮できる見込みがあるとする。また今回の手法の切り替え時間であれば、たとえば光学顕微鏡の撮像の高速化や大規模化、3Dプリンタおよび光リソグラフィなどの光加工における生産効率向上などが期待できるほか、今回開発された一次元SLMは、それ自体を走査ミラーと組み合わせることで、大面積のパノラマプロジェクタとしての応用も期待できるとしている。