NTTコミュニケーションズ(NTT Com)は、同社独自の「アプレット領域分割技術」の新たな活用事例として、アイティアクセスが2024年4月から発売したクラウド型決済端末に採用されたことを発表した。20万台規模の端末で利用することになるという。同技術の活用は、NTT Com が、2024年1月に提供を開始した「Active Multi Access SIM」に続くものになる。

  • altアイティアクセスのクラウド型決済端末

    アイティアクセスのクラウド型決済端末

アプレット領域分割技術は、SIM内において、通信に必要となる情報を書き込む「通信プロファイル領域」と、アプリケーションをはじめとした通信以外の情報を書き込む「アプレット領域」を完全に分離して管理する技術だ。これにより、同技術を採用したSIMには、パートナー企業などが通信以外の機能を独自に実装できるようになる。約300KBの領域を利用できるという。

NTTコミュニケーションズ 5G&IoTサービス部 IoTサービス部門 主査の村田一成氏は、「IoT向けコネクティビティサービス(SIMサービス)は、標準化が進み、選択肢の増加や価格競争が激化するといった状況にあり、NTT Comでは、付加価値のあるSIMサービスを提供するために、革新的なSIMアプレット領域を活用した企画や開発を検討してきた」と前置きしながら、「もともとSIMには、CPUやメモリ領域を持ち、OSやJavaアプレットの実行環境が実装されているほか、外部からの不正アクセスや情報の改ざん操作が困難であるという強固なセキュリティを実現している。今回のアプレット領域分割技術を用いることで、IoT事業者などに対して、分割管理されたセキュアなデータ格納領域を開放し、通信以外の機能を独自に実装でき、課題の解決や新たなビジネスモデルの創出などにつながる付加価値を提供できる」とする。

  • SIMにはもともとOSやJavaアプレットを動作させる環境が搭載されている

    SIMにはもともとOSやJavaアプレットを動作させる環境が搭載されている

アプレット領域分割技術を活用することで実現するユースケースとして、回線故障などの際に、端末への特別な設定なしに、メインキャリアからサブキャリアに自動的に切り替えて、キャリアの冗長化を実現する「高可用性」、決済情報や個人情報などの秘匿性の高い情報をSIM内の安全な領域で処理することができる「機微情報の安全な取り扱い」のほか、デバイスを追加開発することなく、位置情報や回線品質などの動的情報の抽出およびデータ活用が行える「運用保守性の向上」、通信機器に必要なセットアップ作業の一部をアプレットで自動化する「機器設定作業の自動化、省力化」といったユースケースを想定しているという。IoT端末のリソースを使わずに、機能を追加したり、処理できたりすることが、SIMアプレットを利用するメリットになるとしている。

  • アプレット領域分割技術の概要

    アプレット領域分割技術の概要。通信プロファイル領域から独立させることで、セキュアな環境でデータを格納することができるようになる

このほど、アプレット領域分割技術を活用したSIMを搭載した端末を発売するアイティアクセスは、クラウド型決済端末市場でトップクラスのシェアを持つ企業で、自動販売機向けを中心に12万台の非対面型クラウド型決済端末を提供している。

だが、決済に関わる機微な情報を取り扱う際に、厳しいセキュリティ対策要件がガイドラインで規定され、これに則り、決済端末内に機微情報を保管するための堅牢な保存領域を用意する必要がある。そのため、この領域の開発工数の増加とコスト負担が課題となっていた。

NTT Comとアイティアクセスは、決済端末内の保存領域に保存していた機微情報を、SIMのアプレット領域に保管し、必要なときに、サーバーとやり取りする仕組みを開発。アプレット領域を活用することで、保存領域内で機微情報を処理する場合と同様のセキュリティレベルで機微情報の処理が可能になったという。「本来は、決済端末自体に設ける必要があった保存領域が必要なくなり、堅牢化の範囲が限定されるため、決済端末の製造コストを下げることができた」という。

SIMの内部に、通信以外の情報を書き込めるアプレット領域と、通信するために用いる通信プロファイル領域を設けており、この2つを完全に分離して管理。アプレット領域は、 耐タンパで守られたセキュアな領域であり、この領域を自由に利用できるため、機微情報を、SIM内の安全な領域で処理することができる。

「キャッシュレス決済比率は全体の36.0%を占めており、少額決済端末の利用は、今後増加していくことになる。だが、決済に関する情報を取り扱うためのセキュリティ対策や、それに伴うコスト増が課題となり、これがスケーラブルなビジネス展開を阻む要因となっていた。決済端末内の保存領域で処理していた機微情報を、SIM内で処理することで、端末内に特別な構造や、ハードウェアを追加することなく、セキュリティを高めることができる」としている。

  • アプレット領域分割技術のユースケース
  • アプレット領域分割技術のユースケース
  • アプレット領域分割技術のユースケース
  • アプレット領域分割技術のユースケース

NTT Comでは、同社が提供するIoT Connect Mobile Type Sの付加機能として、アプレット領域分割技術を活用したSIMを提供。ネットワーク利用およびSIMごとの追加料金によって収益を得ることになる。価格は個別見積もりになるが、30分や1時間おきにデータを収集する場合、1SIMあたり月額約100円を想定している。また、データ管理を行うアプレットコンソールは月額1万5000円から2万円程度を見込んでいる。

NTT Comでは、今後、アプレット領域分割技術を搭載した新たなSIMのユースケースの拡大に向けて、パートナー企業との連携や共創を推進する考えを示したほか、大規模なIoTサービスを運用している事業者向けに、アプレットコンソールやアプレットOTAを通じた機能拡充により、SIM利用の高度化や省力化に向けた提案を行っていくという。

アプレットコンソールでは、アプレットから送信されるSIMや端末に関するデータを、一元的に参照および管理ができ、利用したいデータを自社システムとAPI連携することができる。基地局情報を利用した簡易位置情報も表示することができるという。

また、アプレットOTAでは、アプレット領域をユーザーが活用するために、アプレット領域にアプリケーションをインストールすることが必要になるが、その際に生じる煩雑な工程をOTA(Over The Air)によって解決するもので、1枚のSIMだけへの対応が可能になったり、低コストでアプリのインストールや更新が可能になったりするという。

  • 今後のビジネスの方向性のイメージ

    今後のビジネスの方向性のイメージ