機能性表示食品の多くの臨床試験で有利な結果が強調され、不利なものが消費者に伝わっていないことが分かったと、国保旭中央病院(千葉県旭市)などの医師や研究者らのグループが発表した。制度のあり方を再検討するよう提起している。3月下旬には「紅麹(こうじ)」成分を配合した小林製薬の製品で、死者を含む健康被害が判明した。機能性表示食品の利用にあたっては、臨床試験の制約にも留意することが望まれるという。
「特定保健用食品(トクホ)」は、健康を保つ機能を持つ食品を国が審査し許可する制度。これとは別に2015年、申請のみで機能性を表示できる「機能性表示食品」制度が始まった。同食品の市場は拡大。機能性を確認する臨床試験は食品会社が「開発業務受託機関(CRO)」に委託することも多い。ただCROの試験の質や結果の消費者への伝わり方は、詳しく調べられてこなかったという。
そこで研究グループは検証を試みた。試験計画を事前に登録する仕組み「UMIN臨床試験登録システム」に、CROの国内大手5社が登録した試験726件中、100件を無作為に抽出。その中から食品に関連した76件を選んだ。このうち32件が論文として出版されていた。これらの中で試験結果を広報する3件のプレスリリースと、結果を基に販売された食品の広告8件、計11件も特定。これらにおける試験結果の説明のされ方を調べた。
その結果、32件の論文では、主要評価項目の数が計画段階の約2倍になっていた(中央値)。うち26件(81%)の抄録に、都合の良いデータだけを強調し、都合が悪かったり矛盾したりするデータを無視して結論を出す「スピン」を確認した。プレスリリースと広告では8件(73%)でスピンが認められた。
具体的には例えば、食品を摂取して4週間で腹囲は減ったが、体重や内臓脂肪、体脂肪率が減っていない食品があった。「結果の矛盾について理に適った説明が必要だ」(研究グループ)という。
記憶力の維持などをうたった食品では、あらかじめ抽象的な検査項目名を登録しておき、臨床試験後に具体的な項目名を挙げたことで、項目数が大幅に増加していた。多数の検査項目では有意差が出ず、アンケートを基に効果を評価。さらに、論文では記憶力の「効果が示唆された」としながら、広告では効果がある旨の断定表現に変わっていたという。
研究グループの国保旭中央病院総合診療内科の染小英弘医師は「評価したのは臨床試験の一部であり、全てを問題視しているのではない。ただ、たとえ一部でも結果と結論に不一致があり、消費者に伝えられているのは大問題。機能性表示食品の規制を強化する見直しが必要だ。臨床試験に携わる研究者は登録する際、評価や解析の方法を具体的に記載する必要があることを知ってほしい。透明性の高い研究や質の高い情報提供が行われるよう期待する」と話している。
一般消費者に対しては「単一の食品を摂取して健康を維持できるというのは、幻想に近い。健康を維持するには常々言われるように、バランスの良い食生活を心掛けることだ。健康維持に近道がないことを認識して欲しい」としている。
研究は国保旭中央病院、岡山大学、浦添総合病院(沖縄県浦添市)、倉敷成人病センター(岡山県倉敷市)、甲賀病院(静岡県焼津市)、国立精神神経医療研究センター(東京都小平市)、京都民医連あすかい病院(京都市)などの医師や研究者、学生で構成する「臨床研究・ピアサポートグループ」と、和歌山県立医科大学(和歌山市)が実施(いずれも発表時)。成果は国際疫学誌「ジャーナル・オブ・クリニカル・エピデミオロジー」電子版に2月28日掲載され、京都大学が3月1日に発表している。
「検証期間や持病に留意を」
今回の成果の発表後に判明した小林製薬の機能性表示食品の問題を受け、染小医師は取材に対し次のようにコメントしている。
「一部報道では、健康被害のあった事例では数年にわたり使用していたり、慢性疾患の併存があったりしたとされている。事実なら、今回の事例と直接の関連はないにせよ、2つのことを注意喚起したい。1つは、機能性表示食品の多くは、有効性および安全性の検証が3カ月程度しか行われていないこと。その期間を超えた長期の有効性や安全性については、製造や販売をした企業が独自に調査していない限りデータがない。もう1つは、機能性表示食品の臨床試験の対象者は、持病を持たない健康な成人であること。疾患の治療を目的としてしまうと、医薬品として扱われてしまうからだ。『食品』である以上、健康成人を対象とする必要があり、何らかの持病がある方は除かれる。そのため、持病がある方については、データがないことになる。機能性表示食品を利用する場合は、これらの点に留意いただきたい」
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