「全ての事業が駄目になったということは、本源的な共通原因があった」とロイヤルホールディングス会長の菊地氏はコロナ禍4年を振り返る。コロナ禍が始まりたった1年で売上1405億円が843億円にまで減少。「ポートフォリオ経営は弱いところを補い合う経営。いってみればお互いもたれ合う関係で、各事業のレジリエンスというものが弱かった」という反省から各事業のサービスを目的型へとシフトする考え。菊地氏の今後の戦略とは─。
コロナ禍で気づかされた経営課題
─ コロナ禍4年の非常に大変な時期をくぐり抜けて現在増益ですね。増益の主な原因と総括を聞かせてください。
菊地 われわれはもともと1400億円を超える売り上げを持っています。外食、コントラクト、食品、ホテル、この4つの事業を主力にしています。この4つの事業でポートフォリオを組んで、比較的高単価のシズラーと、低単価のてんや、コントラクトも社員食堂だけではなく、高速道路のサービスエリア、空港のレストランなど、いろいろな事業をグループの中で持つことでリスクに強い会社をつくっていこうというのが、もともとの意識でした。
─ いろいろな事業を持つことでリスク分散できますね。
菊地 はい。ただ残念ながら今回のコロナという大きなダメージで、全部がやられてしまったというのがわれわれの直面した課題でした。たった1年で売上は約1405億円から843億円まで落ち込んで、自己資本も50%、約500億円あったのが、20%を切る数字です。約300億円も損失が出ましたので、これはもう破壊的なインパクトがありました。
ですからとにかく早く手を打とうということで動きました。
─ 自己資本の面では双日と提携しましたね。
菊地 ええ。300億円の自己資本を失うことが想定され最低1年以内に200億円は回復させなければいけませんでした。ですから水面下でさまざまな交渉をして、21年2月に双日社との資本業務提携を発表させていただいたと。素晴らしいパートナーを得たことは大きかったです。
双日社としても、こういうリテールの領域を強化したいという思いがすごく強かったのではないかと思います。
─ そうやって地固めした上で2024年以降の経営戦略はどんな展開を考えていますか。
菊地 今、コロナが明けて諸物価が上がり円安が進んでいます。もし、われわれが外食事業しかなかったら打てる手は狭い。コストを下げていくか、単価を上げていくかしかありません。
でも、円安が進むとインバウンドが増えますよね。そうすると、われわれの事業では空港やホテルが恩恵を被れます。だから、今このポートフォリオがすごく効いているということです。
しかし、ポートフォリオがあってよかったね、ということで済ませていいという話ではありません。このポートフォリオにも以前から潜在的な問題が潜んでいたのではないかと。
─ その潜在的なポイントはどこにあると?
菊地 全ての事業が駄目になったということは、本源的な共通原因があったということです。それは、人が動かないと成り立たない事業でリスクは人流だったのです。
それからもう1つは、私が申し上げていたポートフォリオ経営というのは、弱いところを補い合う経営。ちょい高ブームになったら、てんやは苦しい。そうしたらロイヤルホストが支えるよということで、いってみれば、お互いもたれ合ってしまい、各事業のレジリエンスというものが弱かったのではないかというのがありました。
3つ目は、今まで増収増益でしばらく続いてきたこともあって、1つの事業が悪くても他の事業がよくて、結果として会社としてはうまくいっていたと。だから、なかなか危機感が生まれにくかったのです。この3つが私の反省点です。
─ 順調だったために危機感が生まれにくかったと。
菊地 はい。それをこれから元に戻すだけでは駄目ですから、ポートフォリオをもっと進化させなければいけない。
人流に依存しないものとして成長させていくのが「ロイヤルデリ」という冷凍食品事業です。
2つ目は、われわれの特徴として、立ち寄り型の事業が多いということです。どこかへ行ったときに泊まるホテル、どこかへ行ったときに立ち寄るサービスエリア、どこかへ行ったときに食事をするレストラン。そうではなく、1つ1つの事業に、お客様が目的を持ってもらうようにしなければいけないのではないかと考えています。
例えば今、リッチモンドホテルプレミア東京スコーレで、サウナ付きの部屋などのコンセプトルームをやっているんですね。こういう目的型サービスが大事であると考えています。どこかへ行くことが目的ではなくて、あそこに泊まってみようとそういう主目的をつくる。
─ 目的を叶えられるサービスを打ち出していくと。
菊地 はい。サービスエリアなども、たまたま高速に乗ったから立ち寄るのではなくて、あそこのサービスエリアに行ってみたいと思ってもらうような努力が必要であると。
それから、いろいろな事業があるという強みを、お客様のためになるように活用できないだろうかと考えています。
例えば、日頃てんやを使っているお客様が、ロイヤルホストやホテル、サービスエリアを使っているかもしれない、今まではこれが仮定で終わりでした。これを、顧客IDで共通化できると、例えば、てんやをよく利用してくださるお客様がリッチモンドホテルに泊まったときに、てんやのクーポンをお渡しできるとか。
─ 各事業でお客さんをつなぐということですね。
菊地 そうです。これがいま考えていかなければいけない進化の方向性だろうなというのが私の認識です。
社員と会社の未来を真剣に考える「R-セッション」
─ そうなると社員同士の連携も必要になってきますね。
菊地 ええ。わたしは2010年に社長に就任してから、決算が終わると全国を回って、従業員たちに会社の方向性などをずっと説明してきました。
コロナ禍でもオンラインで、外食の存在意義とは何か、われわれが変革すべきこととはと従業員との対話を続けました。
売り上げが大きく減少した状況であり、本当にコロナでみんな苦労していて、会社の状況を説明するだけでは駄目だなと思いまして、2023年から始めたのが「R-セッション」というものです。
─ これはどういったことをやるのですか。
菊地 社員が集まって、ロイヤルの10年後をどんな形にしたいかということをディスカッションするんです。そうすると、いろいろなアイデアが出てきます。それをみんなに発表してもらいます。発表が終わってからパネルディスカッションがあり、執行役員と社長も含め、私がファシリテーターになって、今の従業員が10年後につくりたい会社を実現するにはどうしたら良い? とディスカッションします。
われわれは分散型拠点なので、いかにみんなに共通認識を浸透させていくかが鍵になってきます。
─ 「R-セッション」のきっかけとなった「10年後を考える会」に参加しているのは課長や部長の管理職ですか?
菊地 いえ、参加したい人は誰でも参加できます。応募者が79人いたので3チームに分けて、わたしから今、会社はこんな状況ですとか、今、社会はこう動いています、為替はこうですと、こういうものをみんなに教えていくのです。これが発展して、皆でディスカッションという形になりました。
例えば、ロイヤルグループのいい点、駄目な点とか、ロイヤルグループが10年後に残すべきもの、捨てるべきものとか。
─ 自分達の考えをしっかり認識しようということですね。
菊地 そうですね。社員自身が積極的な発信をすることが大切です。10年後に宇宙食の会社をやりたいとか、そういった面白い意見もでました。
3年後となるとすごく近い未来なので今の延長線上でしか、ものごとを考えにくいです。
でも、10年後って見えないですよね。だから、やはり発想がバックキャスティングになる。未来から逆算して今を考えるという、それがすごく面白かったです。10年という時間軸を持つことで、立体的に今の最善の方法をとっていくかを考える良い機会になりました。
前職での経営破綻の経験があったからこそ…
─ 菊地さんが社長に就任したときは世界的にはリーマンショックの直後ですね。
菊地 2010年の3月ですからそうですね。社内もやはりすごく駄目な状態で、内紛の下地みたいなものもあって。
そのときは内部環境が崩れていました。いろいろな雑誌で当時「老舗ファミレス内紛勃発」と言われたりもしました。1月にちょうど株主提案があって、2月にロイヤルホストで食中毒が出て、3月に東日本大震災。その2週間後に初めての株主総会がありました。
─ ご難続きの中でどうやってくぐり抜けてきましたか。
菊地 わたしは昔、日債銀で東郷重興頭取の秘書をしていたので会社が破綻したときもその真ん中にいまして、その経験が今回に活きました。過去にこういう危機を経験したことで、打つ手は早くということを学びましたからね。
─ 然る時期に逃げずに戦ったから学びがあったと。
菊地 頭取や会長が私腹を肥やしているような人だったら、わたしは逃げていたと思います。でもやはりこの2人は非常に高潔で、素晴らしい方でした。
東郷さんは本当に愚痴を一切言わなかったですね。このときのことが今も鮮明に頭に焼き付いています。1つの区切りがきて、わたしが辞めるという決断をしたときには「菊地君なら大丈夫だよ」と、ものすごく優しい言葉をかけてもらいました。数日後に呼ばれて、万年筆をいただいて大事な契約の時には今でもそれを使用しています。
─ その頃は30歳前半でしたね。精神的にはなかなかきついものがあったと思いますが。
菊地 とても怖かったですね。個人も債務超過状態でしたので、会社も未来もどうなるかわからない。逃げ出すべきか逃げ出さないべきか、毎日考えていた気がします。
その経験で破綻の辛さや怖さをものすごくよく知っていましたので、今回のコロナ危機でも従業員に同じ目にあわせてはいけないと強く思っていました。
戦略的規模の圧縮とテクノロジーの導入
─ 人手不足の問題はどう捉えていますか。
菊地 これは、全ての事業において共通ではなくて、事業ごとに違うと思うんです。1つ言えるのは、一部のサービス業では規模を大きくしていくと、サービスが悪くなり価値が下がっていってしまうんです。
ですから、ロイヤルホストでイメージしているのは、これだけ人手不足が深刻になるのだったら、戦略的に規模を圧縮することによって価値を高める。規模を圧縮することで従業員が余裕を持っていきいきと働くことでサービスがよくなり、よりお客様に良い接客を提供することができるようになると考えています。
─ それが店舗の縮小、営業時間の短縮、店舗休業日の設定の決断につながったというわけですね。
菊地 はい。それらを実施してどこで価値が最大化できるかというのを探していくんです。
製造業は規模が大きくなればなるほど価値が上がっていく。それに対して、一部のサービス業は放物線になっていきます。
例えば外食事業も最初はすごい勢いで伸びていくのですが、途中で一気に失速していくことはよくありますよね。それはなぜかというと、店舗数が増えることによるカニバリゼーション、それで特定の食材が使えなくなる、人集めが厳しくなる。ですから当然規模を圧縮することによって、価値の復元が図れるのです。ただ問題はここで頂点に達したとしても放物線の山が動いてくるんです。人口減少によって人手が不足し縮小を続けると、縮小均衡に陥ってしまい、持続性はないと思います。その解決策がテクノロジーの力です。この力を借りてより本源的な価値創造の部分に人を集中させられるサービスを志向していかなければと思います。
─ その中で賃上げについてはどういう考えですか。
菊地 やはり一気に流れを変えていくには、賃上げは絶対的に必要です。これをやらないと持続的な息の長い景気というのは絶対できないと思うので、今はそこを乗り越えないといけないところだと思います。今年を最終年度とする中期経営計画では、「再生・変革」から「成長」をテーマに事業戦略、DX、サステナビリティへの取り組み、人材戦略など、阿部社長が中心となって進めてきました。
これからもリアルに人と会い、話をして、食事を共にする日常において、美味しい〝食〟&〝ホスピタリティ〟でお客様をおもてなしすること、当社ならではの価値を提供していくことが、私たちの存在意義であると思っています。