米国政府は、TSMC子会社であるTSMC Arizonaに対して、CHIPS法に基づき直接資金(補助金)最大66億ドル(約1兆円)を支給することを決めたと発表した。
この66億ドルを受給する条件としてTSMCは、米国アリゾナ州フェニックスに建設中の4nmプロセスならびに3nmプロセスに対応する2工場に加えて3番目となる2nm超のプロセス対応工場を2020年代末までに同州に建設することを米国政府に約束した。66億ドルの補助金は、これら米国3工場建設のための同社の650億ドル(約9兆7500億円。1ドル=150円で計算)の投資を支援するものとなる。これまでは2工場に400億ドルの投資としていたため、第3工場建設に250億ドル(約3兆7500億円)を追加投資することとなる。
補助金のほか、50億ドルの融資や税額控除も予定
この66億ドルの直接資金に加えて、CHIPSプログラム事務局は約50億ドル(約7500億円)の融資(CHIPS法によって提供される750億ドルの融資権限の一部)をTSMC Arizonaに提供する予定としているほか、TSMC側からも米国財務省の投資税額控除を申請する予定としており、その額は適格資本支出の最大25%となる見込みだという。
米国政府は、こうしたTSMC Arizonaへの投資を通じて、将来米国の経済を支え、AI、IoT、家電製品、自動車、、HPC業界などの急成長を促進するチップの信頼できる国内供給源を確保することで、米国経済と国家安全保障を強化する上で重要な一歩を踏み出すことになるとしている。TSMC Arizonaはアリゾナ州に大規模な最先端クラスタ形成を促し、今後10年間で約6000人の直接的な製造業の雇用、延べ2万人超の建設関連雇用および数万人の間接雇用を創出し、最先端のプロセス技術を米国に提供するという。
米国は2030年までに世界の半導体生産能力の2割を確保へ
TSMC Arizonaの3工場がフル稼働すると、5G/6Gスマートフォン(スマホ)、自動運転車、AIデータセンターサーバなどに向けた最先端チップを製造することになる。TSMC Arizonaは、2025年前半までに同社にとって米国として初めてとなる4nmプロセスでの大量生産を開始する予定で、こうしたTSMCのアリゾナへの投資はじめ、IntelやSamsungなど各社の米国への投資のおかげで、2030年までに世界の最先端チップの約20%を生産することができるようになるとCHIPSプログラム事務局は指摘している。
米国のバイデン大統領は今回のTSMCへの補助金支給決定に際し、「半導体は、スマホから自動車、衛星や兵器システムに至るまで、あらゆるものに必須である。これらの半導体チップを発明したのは米国だったにもかかわらず、時が経つにつれて、その生産能力は、世界全体の10%近くにまで下落してしまった。そのため、最先端チップの製造能力もなくなり、米国は経済と国家安全保障の重大な脆弱性にさらされている。私はこの状況を好転させようと決意しており、米国投資計画の重要な部分であるCHIPS法のおかげで、半導体製造と雇用が回復しつつある」と述べている。
また、米国商務省のジーナ・レモンド長官は、「CHIPS法の重要な目標の1つは、世界で最も先進的なチップ製造を米国にもたらすことであり、今回の発表とTSMCのアリゾナキャンパスへの投資拡大により、我々はその目標の達成に向けて取り組んでいる。ここアリゾナで製造される最先端の半導体は、AIやHPCなど、21世紀の世界経済と国家安全保障を定義するテクノロジーの基礎となる。バイデン大統領のリーダーシップとTSMCの米国半導体製造への継続的な投資のおかげで、この資金提供はサプライチェーンの安全性を高め、アリゾナ人に数千の質の高い建設および製造業の雇用を創出するのに役立つだろう」と述べているほか、TSMCのC.C. Wei CEOは、「チップ設計、ハードウェアシステムまたはソフトウェア、アルゴリズム、大規模言語モデルなど、モバイル、AI、HPCの先駆者である米国の顧客をサポートできることを光栄に思う」と述べている。
TSMC Arizonaへの資金提供を通じて、米国はAIに向けた最新の学習アルゴリズムと推論技術を支える重要なハードウェア製造能力を国内に手に入れることになる。これは、科学技術イノベーションにおける米国の競争力を強化するのに役立つとされる。またTSMCは、アリゾナの工場を通じて、サプライチェーンの懸念を軽減しつつ最先端を走る米国顧客の需要に対応することが可能となることで、先進技術を活用する米国の主要顧客企業であるAMDやApple、NVIDIA、Qualcommなどへのより適切なサポートが可能となる。このほか、米国政府より提案されたインセンティブに基づきTSMCは、米国のパートナーを通じて、チップ製造の技術革新の次のフロンティアである高度なパッケージング機能の開発をサポートすることも約束しており、前工程から後工程に至るまで完全に米国内で作れることになる。
米国政府は半導体人材や建築労働力育成にも補助金を支給へ
なお米国政府は、TSMC Arizonaの半導体および建設労働力の育成に5000万ドルの専用資金を提供することも提案している。
TSMC Arizonaは、地元の半導体人材育成への取り組みの一環として、フェニックス市とアリゾナ州のの支援を受ける形の初の育成プログラムを設立した。米国に拠点を置くTSMCの採用チームは、アリゾナ州立大学、アリゾナ大学、パデュー大学など、全米の大学の工学プログラムと積極的に連携しているほか、今後はマリコパ郡のコミュニティ・カレッジやキャリア技術教育プログラムとも提携を進める形で人材育成に向けた取り組みを行うとしている。