スペースシフトは4月3日、これまで衛星データ解析分野で培ってきたAIの開発技術を活かして、地球外知的生命探査(SETI:Search for Extra-Terrestrial Intelligence)に挑戦することを発表した。

  • スペースシフトの地球外知的生命探査プロジェクトのイメージ

    スペースシフトの地球外知的生命探査プロジェクトのイメージ(出所:スペースシフトWebサイト)

現在、地球外生命の探索は、火星、木星や土星の衛星などの太陽系内での生命の兆候を探す探査計画、系外惑星の大気の分析などを通して行われている。そして、人類と同等かそれ以上(少なくとも恒星間通信を行える技術を有する)の地球外知的生命の探査としては、SETIプロジェクトによる主に電磁波を利用した通信の監視がある。

地球外知的生命体というと、フィクションや都市伝説として一笑に付してしまうかも知れないが、SETIはれっきとした科学だ。地球外知的生命体からの信号や通信を探索し、捕捉することを目的とした取り組みである。古くは1960年に行われた「オズマ計画」などまで遡ることができ、現在も米国のSETI研究所などにより続けられている。しかし、今のところは地球外知的生命体からの信号はキャッチされていない(1度だけ、自然の電波とは思えない強い信号である 通称「Wow!シグナル」が1977年にキャッチされたが、それが何だったのか結論は出ていない)。

  • 今回のSETIへの取り組みのイメージ

    今回のSETIへの取り組みのイメージ(出所:スペースシフトWebサイト)

SETIでは主に通信の監視を行うため、地上および宇宙に設置された、宇宙空間からのさまざまな電磁波を捉える一連の望遠鏡・受信機が利用されている。人類と同等かそれ以上の技術力を持つ地球外知的生命体が天の川銀河にどれだけ存在しているのか、それとも存在していないのかは不明だが、仮にいたとしても、その母星などから発信された電波は、恒星間を超えて地球に届くまでに大きく減衰していることだろう。それに対し地球は今や、テレビ、ラジオ、スマートフォンや携帯電話、無線通信など、電波にあふれた世界だ。それに加え、太陽などが発するような天然の電波もあり、そうした圧倒的に強力なノイズにあふれた状況下で、微かな地球外知的生命体からの電波を探し出すのは容易ではない。

そこで活躍が期待されるのが、同社が特異とする解析AI。同社は、これまで地球観測衛星から得られるデータの解析を目的として、さまざまなAIの開発を行ってきた。中でも、合成開口レーダー(SAR)を利用した地球観測衛星のデータ解析技術については、元データとなる電波の波形そのものから変化検知を行うAIを開発済みだという。今回のプロジェクトでは、そうした電波の解析技術を、SETIに応用するとする。

SETIの中で検知したい信号は、観測データにおける突出した信号や現在地球上から宇宙に放出されている信号に類似したパターンだという。使用するデータは世界各国で運用されている電波望遠鏡の公開データを利用し、AIに天体由来の信号や観測ノイズ、地球からの人為的な信号など、さまざまな要素を学習させることで、ノイズとして取り除けるようにする。その結果、これまでは発見することのできなかった、地球外知的生命からの信号を見つけ出せないかと考えているとした。このようなAIを使った取り組みは2018年ごろから行われているが、同社の強みを活かし、より高度なAIによる検知を目指すという。

また今回のプロジェクトは、熊本大学大学院 先端科学研究部 理学専攻物理科学講座の高橋慶太郎教授の協力を得て実施される。現在、高橋教授の研究室では「宇宙から地球を見た時に、どのような人為的な信号が観測されるのか」などの検証が、実際の電波望遠鏡を用いて行われている。同社では、これらの観測・検証結果を学習させたAIを開発することで、これまでは見逃されてきた信号パターンを検知可能とし、より高精度なSETIの実施や、RAWデータ解析(SAR衛星データを用いた従来の画像化処理を経ない物体検知技術)のアイデアの応用などを計画しているとした。

同社の金本成生代表は今回のプロジェクトに対し、「幼少期から、宇宙に興味を持ち、なぜ宇宙が存在するのか、宇宙の仕組みはどうなっているのかを今も解き明かしたいと思っています。そのような興味から、宇宙ビジネスを志し、衛星データの解析ビジネスを行っています。この度、SETIの専門家である熊本大の高橋教授のご協力も得ることができ、地球外知的生命の存在の確認、また、まだ人類が到達できていない優れたテクノロジーに関する情報に触れることができるのではないかと今からワクワクしています。弊社にはAIを活用して、SAR衛星データなど、見えないものを解析する技術を開発してきた実績があります。その技術を活かして『人類は本当に宇宙で孤独なのか』という全人類的な課題にチャレンジします」とコメントしている。