人材育成─。どの企業も力を入れて取り組んでいるテーマでしょう。ただ、それが真に自社の成長に寄与しているでしょうか。あるいは教育の成果を「見える化」できているでしょうか。
【ずいひつ】ジンジブ・佐々木満秀代表取締役が語る「日本の活力を取り戻すため高卒生の可能性を広げたい!」
そもそも経営者が人材育成への投資を控える背景には、研修や教育の効果が分かりにくいという課題があります。採用活動は何人が応募し、何人が入社したかと成果は明確ですが、教育は2倍の費用をかけても、2倍の効果が出るとは限りません。
また、企業研修で特徴的な事例は新人研修や役員研修は充実している一方、課長以下の中堅社員向けの教育は、なかなか進んでいません。なぜなのでしょうか。それは個々人が個々の研修を受けることで、自らの能力やスキルがどう上がるのか、それが会社の成果にどう結び付くかが明確ではないからです。
高度経済成長期では、人口も増え、事業の成長を前提に組織が成り立っていました。どんなビジネスをすれば良いかも掴みやすかったと言えます。しかし今は成熟社会です。その上、多様な人が働くため、その人の目的や動機も様々です。その中でも企業は生産性を向上させるためにも、教育や研修においても最大限の効果を発揮することが求められています。
ここで重要になってくるのが「コンピテンシー(社員が職務や役職において優秀な成果を発揮する行動特性)」という概念です。これは研修体系図として「見える化」することができます。いわば研修の内容とその目的、さらにはその研修から得られる成果を具体的に示す〝地図〟とも表現することができます。
当社では様々なテストを導入して、この数値化を試み、研修前と研修後で社員の行動がどのように変化したのかを調査しています。こういったノウハウや知見を持っていることが当社の強みとも言えるでしょう。
これまで積み上げてきたこの強みを生かして、スキルや知識といった目に見える要素と価値観や特性といった目に見えない要素の両面を取り扱った地図を、当社独自に作成し顧客へ提供しています。仕事でのパフォーマンスは目に見える要素だけでなく、行動や意欲、価値観などの隠れた要素が積み重なって形成されていくからです。
ただ、私が強調したいことは単に地図を用意することではありません。同時に、企業の理念やビジョンといった社員の魂を揺さぶるような情緒的な価値と合わせた〝両立思考〟とも言うべきハイブリッドな仕組みが求められるということです。
目に見えない部分にも目を向けて、優秀な社員の特性を総合的に捉えるようにするのがコンピテンシーの概念になります。役職や等級、レイヤーごとに社員に求められる役割と能力を明確にし、職種や階層ごとに分けて教育を実施。経営目標の実現に必要なマインドやスキルを持った社員を育てていくのです。
この発想のヒントはシンガポール政府の「WSQ」です。「労働者技能資格」という意味で、同国では、あらゆる職業に必要とされるコンピテンシーを提示し、それらを高めるためのトレーニングの紹介や資格取得費用の補助を行っています。WSQを取得すれば、同国内で就職や転職をする際に履歴書などでアピールすることができるのです。
GDPなどの国際競争力で他国に劣っているとはいえ、日本企業には、もともと〝和〟の精神があります。〝個〟ばかりに主眼を置かず、〝集団〟の中で〝個〟を生かす〝和〟の思想があるのです。これを生かすためにも、人のあらゆる可能性を切り拓く教育が求められてくるのです。