ServiceNow Japanは4月3日、オンラインとオフラインのハイブリッドでNow Platformの最新版「Washington, D.C.」に関する説明会を開催した。Now Platformは、同社がSaaS(Software as a Service)で提供する業務アプリケーションの基盤となるクラウドプラットフォームで、製品バージョンアップを年2回実施。Washington, D.C.は、2024年における最初のバージョンアップとなる。
最新版「Washington, D.C.」のコンセプト
はじめに、ServiceNow Japan 常務執行役員 COO(Chief Operating Officer)の原智宏氏はガートナーの調査結果を引き合いに出しつつ「2024年における世界のテクノロジーに対する支出は5兆ドルに達すると予測されており、コロナ禍で落ち込んだものが回復傾向にある。当然、これをけん引しているのが生成AIであり、当社では昨秋に『Now Assist』をリリースし、実際の利用ケースに沿って機能強化を続け、生成AI機能の根幹をなすもの」と述べた。
Now Assistは、ヘルプデスク業務やカスタマーサービス窓口業務などを支援するライブエージェントや管理者、開発者、エンドユーザーをはじめ、Now Platformを利用者を支援するとともに、ポータル、ワークスペース、仮想エージェントで具体的かつ関連性の高い検索結果を提供。
また、Q&Aや各種ユースケースの予約で繰り返しのタスクを自動化し、解決までのリードタイムを短縮できるほか、マニュアルでのコーディング作業を削減し、開発生産性の向上を可能としている。
最新版のコンセプトに関して同氏は「インテリジェントな自動化、シンプルなエクスペリエンス、拡張性&スケーラビリティの3つがコンセプトだ。自動化で生産性向上を推進するほか、単一プラットフォーム上でAIによる分析・支援を提供する。また、迅速かつ効果的で正確なサービスで、短いサイクルでの業務改善を推進する」と話す。
生成AIが組み込まれた各機能群
続いて、ServiceNow Japan マーケティング本部 プロダクトマーケティング部部長の古谷隆一氏が最新版を解説した。同氏が説明したのは「Now Assist for IT Operations Management」「Sales and Order Management(SOM)」「Platform Analytics」「Security Posture Control」の4つだ。
Now Assist for IT Operations Managementは、生成AIを利用したIT運用のための機能。生成AIが提供する自然言語により、専門用語が多用されたアラートを簡素化し、アラートとインシデントの分析で技術的なコンテキストを充実させ、解決の迅速化が図れるという。汎用のLLM(大規模言語モデル)にアクセスすることなく、専用に構築された用途特化型LLMで組織のオペレーションデータを保護するというもの。
古谷氏は「現在進行形の問題や潜在的な問題をIT管理者が素早く特定し、解決策を提示する。これにより、担当者の対応時間を短縮し、IT運用の経験が浅い担当者を助けるだけでなく、膨大な数のIT機器から発せられるアラートから対処が必要なものを見つけ出し、解決にかかる1件あたりの時間を削減することで、すべてのIT担当者の支援、組織全体におけるIT運用の効率化を実現する」と説く。
SOMは、販売前の商談から見積書作成、オーダーの受注、フルフィルメント、販売後の顧客エンゲージメントに至るまで、顧客ライフサイクル全体を管理する。既存のアプリケーションと連携することで、Now Platform上でフロントオフィス、ミドルオフィス、バックオフィスそれぞれを結び付けることが可能。
これにより、販売代理店やフルフィルメント担当者は販売機会の管理、見積もりの設定と価格設定、注文の受付と処理などを容易にできるほか、カスタマーサービス担当者が販売後の商流を変更し、アップセルやクロスセルの機会を促進できるという。サービス担当者は、営業担当者と同じように商談、見積もり、注文の作成を可能としている。
Platform Analyticsは、Now Platform全体にわたるレポーティングとアナリティクスが可能。複数のデータによるダッシュボードを作成する。
また、パーソナライズされたタイムリーな情報をUIの「Next Experience」のワークスペース内で直接表示し、ワークフローの作成・校正・監視を行う「Workflow Studio」に連携。そのため、分析閾(しきい)値に基づく、条件ベースのワークフロートリガーを作成し、洞察から行動へとシームレスに移行することができるという。
Security Posture Controlは、組織の資産におけるセキュリティツールの適用範囲のギャップを可視化。
具体的には、エンドポイントプロテクションエージェントの欠如といった、組織のインベントリやセキュリティポリシーのギャップを可視化するほか、資産におけるIT衛生管理のギャップを修正する対応ワークフローの自動化を可能としている。
さらに、重要な脆弱性や設定ミスのある機器をはじめ、リスクの高い資産の組み合わせを検出し、優先順位を設定する。
ServiceNowにおける生成AIの考え方
一方、原氏はこれまでの生成AIに関する同社の取り組みについても説明した。同社では2017年から戦略的M&Aにより、AIの取り組みをスタートしており、買収した企業の製品をNow Platformに組み込んでいる。
また、2018年からは社内で生成AIと用途特化型LLM(大規模言語モデル)に関する70以上の研究成果を公開。その後は生成AIのユースケース、イノベーション、LLMのポートフフォリオを拡大させ、仮想エージェントにおける生成AIの機能強化でセルフサービスによる自己解決率を向上させているという。
このような中で、現在は企業において生成AIの取り組み自体はさまざまな形で行われている一方、個々の従業員の創意工夫に一任されている側面があり、生成AIをどのようにして業務に活かしていくかを考えるフェーズを迎えているとのことだ。
同氏は「生成AIを正しく日常業務に組み込むためのユースケースを提供することで、エンドユーザーがシステムを通して行う業務の体験を変革し、これを通じて生産性を引き上げ、ひいては組織の変化対応に対する俊敏性を高めていくようなユースケースを優先的に製品に組み込んでリリースしている」と話す。
ユースケースに紐づいた生成AIの機能として、情報検索やワークフロー、運用高度化、自動生成、チャット、回答といった直接業務を挙げており、一般ユーザーによる各業務部門向け機能、IT部門向け機能、開発者向け機能を提供している。
生成AIの導入に際してカギとなるアプローチ
そして、原氏は「当社が一番重視しているのは、ペルソナに準じた機能を提供することで、日々の業務に円滑に生成AIが組み込まれていくことが必要だと考えている。そのため、部門を超えてすべてのエンドユーザーをサポートしていくことが当社が目指している生成AIの世界観だ」と力を込めた。
そして、生成AIの導入において大きなカギとなるものが従来から同社が提唱している「ヒューマンセントリックアプローチ」となる。これは、ユーザーを志向のシステムのあり方であり、業務にフォーカスしたシステムではなくエンドユーザーを中心とした考えだ。
同氏は「エンドユーザーが業務ごとに利用の形態をイチから考えるのではなく、当社を通して生成AIが利用される際にガバナンスと管理のもと安全な形で生成AIを使い、利用されるデータもセキュアに管理され、意図しない情報が生成AIで提供されないようにユーザー体験のガイドラインを設けるべきだ。また、計画的かつ段階的に業務に生成AIを組み込むことで生成AIを利用していると意識せずに、日々の業務が自然と生産性の高いものことが望ましい状態だ」と説明した。
こうしたことから、同社ではビジネス上の課題をNow Platformと生成AIによる、デジタルワークフローを通じて業務をデジタル化することで、解決に導くという。
さらには、プラットフォーム上に蓄積されたデータを活用しつつ、業務のボトルネックを改善して、新たな業務のあり方をプラットフォーム側から提案していくというサイクルを回し、継続的な改善をサポートするものとして生成AIを位置付けていく考えだ。