経済産業省(経産省)は4月2日、「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」におけるRapidusに対する2024年度の計画・予算を承認し、最大5365億円を支給すること、ならびに先端パッケージング技術の高度化に関する研究開発に関する予算(2024年度上限535億円)も採択したことを明らかにした。

  • 今回の発表の要旨

    今回の発表の要旨

  • 経産省が公表したRapidusへの2024年度予算概要

    経産省が公表したRapidusへの2024年度予算概要 (出所:経産省発表資料)

これを受けてRapidus(ラピダス)は同日、都内で会見を開き、この経産省ならびにNEDOの決定を踏まえた2nm世代の半導体チップレットパッケージ設計・製造技術に関する取り組みなどの現状説明を行った。

  • 登壇したRapidus代表取締役社長の小池淳義氏

    登壇したRapidus代表取締役社長の小池淳義氏(左)と同取締役会長の東哲郎氏(右)

2025年4月のパイロットライン稼働に向けた大きな一歩

チップレットパッケージの研究開発に先行する形で進められてきた「日米連携に基づく2nm世代半導体の集積化技術と短TAT製造技術の研究開発」についての2024年度計画・予算は、2023年度の目標達成を受けて正式に決定されたもの。2024年度の取り組みとしては、2nm世代のロジック半導体の量産技術開発を中心に短TAT生産システムに必要な装置、搬送システム、生産管理システムの開発、ならびに2025年4月からのパイロットラインIIM(Innovative Integration for Manufacturing)稼働に向けた建屋の建設およびクリーンルームの稼働開始、EUV露光装置などの製造装置の搬入などが進められる予定としている。

  • Rapidusの2nmプロセス量産までのロードマップ

    Rapidusの2nmプロセス量産までのロードマップ。2024年末までにIIM-1のクリーンルームが完成し、装置の搬入が開始される予定。2025年4月にはパイロットラインを稼働させることが計画されている

Rapidus代表取締役社長の小池淳義氏は、「2024年12月には製造装置のIIM-1への搬入を開始する計画で、その搬入に必要となるクリーンルームなどの設備はそこまでに完成している予定。工事は順調に進んでおり、今回の経産省の認可によって、確実にこれを進行できるめどが立った」とし、2025年4月からのパイロットラインの稼働、ならびに2027年第1四半期より予定している量産開始に向けて、今回の2024年度予算決定が大きな一歩になると強調する。

  • 2024年度のRapidusの前工程研究開発の取り組み概要

    経産省が公表した2024年度のRapidusの前工程研究開発の取り組み概要 (出所:経産省発表資料)

エプソン千歳事業所の一部を借り受けチップレット試作ラインを構築へ

一方の今回採択されたパッケージング技術の研究開発は、4月1日付で新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が発表した「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」における研究開発項目「先端半導体製造技術の開発」のうち、「2nm世代半導体のチップレット・パッケージ設計・製造技術開発」の採択先として決定されたことを踏まえて進められるもの。Raidus、産業技術総合研究所(産総研)、東京大学(東大)が協力して、IBM、独Fraunhofer、シンガポールA*STAR IME(Institute of Microelectronics)との国際連携の形で進められる予定で、高性能半導体に必要となるチップレットパッケージの実現に向けて、2nmプロセス世代の半導体を用いたパッケージの大型化および低消費電力化を実現する実装量産技術ならびに設計に必要なデザインキット、チップレットのテスト技術の確立を目的として行われる。

この取り組みに際し、同社は2nmプロセス世代の最先端チップレットパッケージとなる2.xDおよび3D ICの設計・製造技術の確立に向けたパイロットラインをIIMに隣接するセイコーエプソン千歳事業所のフロアの一部を借り受ける形で設置することを予定している。このエプソン千歳事業所はRapidusのIIM-1に隣接する場所で、前工程との連携を考えると最適な立地だという(IIM-1が量産稼働した際には、同工場内で前工程と後工程が一貫生産の形で実施される予定)。エプソン千歳事業所はもともと高温ポリシリコンTFT液晶パネルの生産工場で、エプソンとしては5月上旬までに具体的な貸与内容などを取り決めたいとしており、Rapidusとしても契約締結後に借り受けたフロアに2024年度中にクリーンルームの設置を行い、その後、装置の搬入を進めたいとしている。

  • セイコーエプソン千歳事業所

    セイコーエプソン千歳事業所。Rapidusは同事業所の1フロアを借り受け、そこにクリーンルームの設置、ならびに試作ラインの設置を計画しているという (出所:セイコーエプソンWebサイト)

後工程向けの投資として535億円はかなりの額だが、多くの開発要素技術として前工程の装置なども導入する必要があるため、それなりの金額が必要になるためだと思われる。

実際に開発するのは600mm角パネルでの有機絶縁膜RDLインターポーザの開発、3Dパッケージ技術、量産化技術の検証などで、600mm角パネルを活用したRDLインターポーザの開発は、レゾナックを中心とする後工程コンソーシアム「JOINT2」が進めているような配線微細化と大面積化によるコスト削減が可能になるガラスのパネル基板上に微細配線を形成した後に樹脂でモールドするといった手法が想定されており、ターゲットの端子ピッチは25μm、Line/Spaceは2μm/2μmとしている。また各チップレット間を接続するブリッジにはシリコンを採用する予定で、チップレットの規格としてはUCIeベースとなる模様で、メモリとロジックのハイブリッドボンディング技術の開発ターゲットとしては端子ピッチ3μmとしている。

  • apidusの後工程に向けた研究開発の概要

    経産省が公表したRapidusの後工程に向けた研究開発の概要。2nmプロセスチップはRapidusが製造するが、それ以外のメモリについてはメモリベンダから購入することとなる (出所:経産省発表資料)

  • Rapidusが公開した資料

    Rapidusが公開した同様の資料。異なる点は、300mmウェハからインターポーザーを取ると4個しか取れないが、600mm角パネルであれば40個インターポーザーが取れるという部分。取れ数が10倍になるので、コストの低減が可能になるというのが1つの特長となる

このほか、アプリケーションごとに最適な高効率/高性能チップレットパッケージの設計およびテスト技術開発に向けた顧客向けデザインキット(Assembly Design Kit)の構築、KGD(Known Good Die:ベアダイの状態で良品であることを保証する)選別テスト(ウェハレベル/ダイレベル)の開発も併せて進めていくとしており、小池氏は、「ADKをきちんと確立することで、顧客の最終製品に向けて提案できるようにする。またチップレットのテスト技術の確立と併せて、コストとスピードの両立を実現する」と、これまで同社が掲げてきたビジネスモデル「RUMS(Rapid and Unified Manufacturing Service)」である設計と前工程、後工程の連携には、このチップレット技術の確立が重要であることを強調する。

  • RUMSのビジネスモデルイメージ

    RUMSのビジネスモデルイメージ。設計支援、前工程、後工程が一貫してRapidusがサポートすることで、顧客はそれぞれのパートナーを選別することなく、最終製品を手に入れることができるようになり、かつオール枚葉の製造により、他社よりも製造期間を短くすることができるというのが特徴となる

量産実現に向けて人員を引き続き拡充、次世代に向けた新卒採用も実施

Rapidusは、2nmプロセス技術の習得に向け、パートナーのIBMが拠点を構える米国ニューヨーク州アルバニーに100名を超すエンジニアを派遣しているが、ラボレベルの製造と量産レベルの製造では大きく意味合いがことなってくることから、2027年の量産開始に向けてさらなる人員拡充を目指して、広く人材募集を続けている。小池氏も「2024年にはもう100人、合計200名規模のエンジニアをアルバニーに送り込む。量産技術の確立には人員が必要で、毎日のようにエンジニアを送り込んでいる」と説明。熟練の半導体エンジニアを中心に毎月30名規模で採用を続けており、4月1日の入社式には40名弱が参加したという。

また、2024年4月1日付の入社には、同社初となる9名の新卒者も含まれていることを明らかにした。そのうち4名が博士課程とのことで、「優秀な人物を迎え入れることができた」と小池氏も評価する。小池氏は、「これから本格的に新卒と熟練者を半々に、エンジニアの数を拡大していきたい」と今後の人員採用計画について説明。「優秀な人たちが熱意をもって応募してきてくれており、エンジニアが不足するといったことはあまり心配していない」と、2027年の量産開始に向けて重要な役割を担うエンジニアたちの数は着々と増えてきていることに触れ、そうした人たちと一丸となって2027年の量産立ち上げを実現したいとしていた。