【データに見る「ECの地殻変動」】<第25回>今こそ真価が問われる『ネット広告』

電通は2月末、毎年恒例の「日本の広告費」を発表した。このデータから広告市場の状況を定量把握できるので、筆者はこの時期同社の発表を心待ちにしている。実際の数値だが2023年の総広告費は7兆3200億円となり、前年比で2000億円強が増加した。このうちネット広告費は3兆3300億円と、こちらも2000億円以上の増加だ。数字を細かく見ると項目毎に増減はあるのだが、ざっくり言えば総広告費の伸びはネット広告費の伸びによってもたらされている。

そのネット広告費について過去と現在を比較してみよう。2018年の総広告費は6兆5300億円であり、うちネット広告費は1兆76000億円と全体の27%に過ぎない。しかし2023年のネット広告費は3兆3300億円と全体の45%を占める計算になる。つまり2018年から、わずか5年間でネット広告のウエイトは27%から45%に拡大したのだ。まだネット広告は伸びそうなので、このままの勢いが続けば2、3年後には50%を突破するだろう。

ところで電通発表のネット広告費は、①ネット広告媒体費 ②物販系ECプラットフォーム広告費 ③制作費――で構成されている。

②はその名の通りECプラットフォーム上での広告費であり2000億円程度とまだ小さい。また③は正確には、広告の制作費用のことだ。したがって①ネット広告媒体費に目が行ってしまうのだが、同社はこの中身についてさらに細かく分解したデータを発表していて、その中に興味深いものが2点あるので紹介したい。

<ソーシャル広告と動画広告に注目>

1点目はソーシャル広告費について。ソーシャル広告費とはいわゆるインスタグラムなどのSNSを通じたネット広告費のことである。電通は①ネット広告媒体費をソーシャル広告費とそれ以外に分類している。2018年のソーシャル広告費はわずか3890億円であったが5年後の2023年には9735億円と1兆円に迫る勢いだ。この間2.5倍に急拡大した計算になる。肌感覚で感じるSNSの勢いをソーシャル広告費という具体的な数字で裏付けている。

2点目は動画広告費について。電通は①を「成果報酬型広告費」「検索連動型広告費」「ディスプレイ広告費」「動画広告費」でも分類している。この中で着目したいのは動画広告費だ。2018年は2027億円と決して大きくはなかったが2023年は6860億円と5年間で3.4倍に拡大した。まだ伸びしろがありそうだ。

YouTubeもさることながらTikTokを始めとしたショート動画が動画広告費を大きく押し上げていることは言うまでもない。

このようにネット広告費は増え続けている。だが個人消費も小売市場規模も長らく増えていないのでマクロ的には広告効果があったとは必ずしも言いきれない。広告単価の上昇により費用対効果をシビアに捉えている事業者も多い。

現在、賃金上昇のムーブメントが到来しており個人消費拡大が期待されている。ネット広告は個人消費を刺激する役割を担っているとの前提を置けば、今こそその真価が発揮されるべきと筆者は思う。