東北大学は3月29日、同大学のタフ・サイバーフィジカルAI研究センター(TCPAI)が2020年に開発した複数ドローンの着陸技術(吊り下げ式の水平着陸用ポート)の「EAGLES Port」が、風の強い条件下でのドローンの着陸性能を大幅に向上させることを、風洞施設での実機実験により明らかにしたことを発表した。
同成果は、東北大 TCPAIの田所諭センター長らの研究チームによるもの。
近年、ドローンの利用は物流、救助活動、農業など、さまざまな分野へと拡大している。ドローンはヘリコプターのようにエンジンを搭載していないため、軽量であることが優れた点の1つだが、強風下ではそれが逆に仇となる。飛行中は機体を立て直せるものの、着陸に際しては制御が難しく、機体が流されたり風に煽られたりするため、目的の着陸場所に降りられなかったり、着陸時に転倒してしまったりする危険性も出てくる。さらに場合によっては、地面に叩きつけられて荷物や機体そのものが破損するようなこともあり得るだろう。要は、風の強い条件下での精密な着陸が大きな課題となっていたのである。
日本でのドローンの運用は、まだ都心部での流通における本格利用には至っていないが、離島などでは流通用途といった領域で実運用やさまざまな試験運用が始まっている。今後ますますドローンの利活用が増大していった場合、複数台の同時運用などが当たり前となることが想像される中、そうした時の着陸場所の確保も大きな課題となっていた。
こうした課題を解決すべく、TCPAIが2020年に開発したのが、複数ドローンの連続着陸を可能とするEAGLES Portだ(吊り下げられた状態で地面に着いてないので、より正確にいうなら“帰還”だろう)。同ポートは横158cm×奥行き170cm×高さ130cmのフレームが組まれた装置で、車などでも運べるコンパクトさがある。
EAGLES Portに帰還するドローンには、あらかじめ専用のフック(バー)を機体上方に垂直に立てておく必要がある。これがEAGLES Portの正面のおおよその範囲内に収まるようにして通過すれば、あとはフレームなどがフックを通して機体を誘導し吊り下げ式での帰還が完了。針の穴を通すような正確な操縦などは必要なく、強風下でも比較的容易に帰還が可能だ。
そしてドローンは最終的に、飛行の勢いなどを利用してEAGLES Portの後方へと進むうちにスキー場のリフトのように吊り下げられる形となり、ローターの回転を止めても落下する心配はなくなる。また後方へと送られる速度も速いため、複数台が比較的短い時間間隔で連続して帰還することもできる(吊り下げられているので、機体下方に空間があることから、荷物の積み卸しも容易)。収容も複数台に対応しているため、着陸場所の確保という問題も解決できるという。
今回研究チームは、EAGLES Portに市販ドローンを着陸させる試験を、さまざまな条件の風を発生できる福島ロボットテストフィールドの大型風洞施設で行い、EAGLES Portの着陸速度と精度を評価したとする。
そして試験の結果、EAGLES Portへの帰還は、従来の垂直方式と比較して着陸時間を平均35%短縮でき、着陸精度も大幅に向上することが確認された。試験において、風速3mの条件下では、EAGLES Portへの帰還も従来の垂直着陸も問題なかったが、風速6mでは垂直着陸で狙った場所に正確に着陸するのは困難だったのに対し、EAGLES Portへの帰還はまったく問題がなかった。加えてEAGLES Portへの帰還であれば、風速9mでも問題ないことが確認された。
また複数のドローンを用いた試験では、連続して迅速に帰還できたことから、EAGLES Portは複数ドローンの運用にも問題なく対応可能であることが確かめられたとしている。
なおEAGLES Portを導入することで、よりドローンの自動運用がしやすくなるため、オペレーターを用意する必要がなくなり、コストを下げられるという。またどのメーカーのドローンでも、上部に吊り下げフックとなるバーを固定できればどの機体でも利用できるため、複数のメーカーの機体の混成運用も可能とする。
TCPAIでは今後も、EAGLES Portのさらなる最適化と、自動水平着陸システムの開発を進めていくという。これにより、ドローンの自律的な着陸が可能となり、実世界での幅広い応用が期待されるとのこと。また今回の試験結果の詳細は、今後、雑誌論文などで発表する予定としている。