情報通信研究機構(NICT)は3月29日、光ファイバ伝送で世界最大の37.6テラヘルツの周波数帯域を活用し、毎秒378.9テラビットの伝送実験に成功し、既存光ファイバの伝送容量の世界記録を達成したことを発表した。
近年、光ファイバの利用可能な波長帯を拡大したマルチバンド波長多重技術の研究が進んでいる。既存の光ネットワークでは、新たな波長帯を利用することで通信容量を増やせるため経済的な大容量化手段として有用であり、研究が進んでいる新型光ファイバとマルチバンド波長多重技術を組み合わせることで、将来にわたって光ネットワークの大容量化が可能となる。
これまでNICTは、商用の長距離光ファイバ伝送システムで利用されている波長帯(C帯、L帯)に加え、S帯やE帯といった商用化されていない波長帯を活用し、大容量伝送を実証してきたが、新たな波長帯であるO帯やU帯に対応した光ファイバ伝送システムは実現されていなかったという。
今回、NICTは、O帯、E帯、S帯、C帯、L帯、U帯を合わせて世界最大の37.6テラヘルツの周波数帯域幅、1,505の波長数を使用可能にしたマルチバンド波長多重技術を基にした光ファイバ伝送システムを開発。このシステムは、光ファイバ、光増幅器、送受信器、光スペクトル整形器、合波器/分波器などから成る。国際共同研究グループが開発した各波長帯に対応した光ファイバ増幅器や光スペクトル整形器を活用し、光ファイバの波長特性に合わせて全波長帯の光信号強度を最適設計して、毎秒378.9テラビットの波長多重信号の50km伝送を達成したという。
信号の変調には情報量が多い偏波多重QAM方式を使用し、16QAMをO帯、64QAMをE帯、U帯、256QAMをS帯、C帯、L帯に使用。過去の成果(2023年10月)と比較して、伝送容量25%、周波数帯域幅35%増加し、既存の光ファイバ伝送における世界記録を更新した。
今後、新しい通信サービスにより通信量が急激に増加することが予想される。既存の光ネットワークに新しい波長帯を導入することで、設備投資を最小限に抑えつつ伝送容量を増加させることが可能となる。さらに、研究が進む新型光ファイバとマルチバンド波長多重技術を組み合わせることで、将来の通信需要に柔軟に対応できる光ネットワークの実現が期待されるという。