日本女子大学、早稲田大学(早大)、PerkinElmer Japanは3月27日、葉面に捕捉された「大気中マイクロプラスチック」(AMPs)に適した葉面洗浄法を開発し、AMPsが樹冠の葉の表面にある「エピクチラワックス」(飽和/不飽和脂肪酸で構成されるコーティング構造)に吸着することを発見し、森林が大気中のAMPsの陸上シンク(吸収源)として機能する可能性があることを明らかにしたと発表した。
同成果は、日本女子大大学院 理学研究科の宮崎あかね教授、同・須永奈都大学院生、早大 理工学術院の大河内博教授、PerkinElmer Japanの新居田恭弘氏らの共同研究チームによるもの。詳細は、自然環境に関する全般を扱う学術誌「Environmental Chemistry Letters」に掲載された。
2020年に初めて葉に捕捉されたAMPsが報告されて以降、森林にはAMPsの重要なシンクとして機能する可能性があるとして研究が進められているが、先行研究には主に2つの課題があったという。
1つは、AMPsを葉から回収する際に超純水で葉面を洗い流す手法(葉面洗浄法)や超音波洗浄法が用いられてきたが、葉に捕捉されたAMPsがすべて洗浄されているのかが検討されておらず、葉面捕捉量を過小評価している可能性があった点。そしてもう1つが、市街地の街路樹や公園などの低木が対象とされており、高木で構成される森林によるAMPsの捕捉実態や捕捉機構は調べられていなかった点で、適切な評価のためには、これら2つの課題の解決が不可欠とされていたという。
一般に、植物の葉面には、エピクチクラワックスや「トライコーム」(表皮細胞が分化した毛状の突起構造)などが存在し、それらが葉面でのAMPsの捕捉に影響を与える可能性があるという。たとえば、AMPsはトライコームに物理的に捕捉されたり、プラスチックの有する親油性によってエピクチクラワックスに吸着されたりする可能性があるとする。そこで研究チームは今回、超純水に加え、超音波とアルカリによる洗浄も実施することで、葉面に捕捉されたAMPsの除去効果を検討することにしたとする。
先行研究から、弱い超音波洗浄はトライコームをはじめとする表面の物理的な構造によって捕捉されたAMPsの回収に有効であり、アルカリ洗浄によるエピクチクラワックスの溶離は吸着したAMPs回収に有効であることが考えられたという。そこで、それらの洗浄方法を同一の葉に順次行うことで、各洗浄方法の評価が行われ、葉によるAMPs捕捉機構が推定された。
今回の調査地は、AMPsの主要な発生源と考えられる都市近傍(東京都心から南西に約19km)に存在することから、神奈川県川崎市の日本女子大の西生田キャンパスが選ばれた。同キャンパスの校地面積(29万3800m2)のうち、約6割が森林。日本の主要な広葉樹で、同キャンパスの主要樹種であるコナラの葉が、2022年6月21日および8月9日に採取された。そしてそれらの葉が3種類の方法で洗浄された後、AMPs抽出の処理が行なわれ、詳細な分析が実施された。
その結果、超純水、超音波、アルカリと段階を経るごとに検出AMPs量が上昇し、アルカリ洗浄で最大量が回収されたほか、葉面観察の結果、超純水では葉上に捕捉されたAMPsが、超音波ではトライコームに物理捕捉されていたAMPsが、アルカリではエピクチクラワックスに吸着していたAMPsがそれぞれ洗浄されたことが推測されたという。
これらの結果から、AMPsの主要な捕捉メカニズムとして葉面エピクチクラワックスへの吸着が機能していること、さらに同ワックスに吸着されたAMPsは超純水や超音波などの洗浄では十分に回収できないのに対し、アルカリ洗浄なら適切に回収できることが確認されたこととなった。このことから、日本全体のコナラ林(約32万500km2)には年間で約420兆個もの膨大な量のAMPsが捕捉されていると推計され、森林がAMPsのシンクとして機能している可能性が高いことが判明したとする。
研究チームはこれらの結果を踏まえ、森林がCO2吸収源に加え、AMPs対策としても重要なことが示されたことから、日本で衰退しつつある林業を再興し、森林を適切に管理していくことは、地球温暖化とAMPsの両問題に対して有効な対策となり得るとする。
また、葉面に捕捉されたAMPsはいずれ落葉と共に林床や森林域の土壌へと移行して蓄積し、森林生態系を破壊する可能性があることが考えられることから、今後は樹冠のみならず、林床や土壌におけるマイクロプラスチック量やそれらに対する影響についても調査を進める必要があるとしており、さまざまな樹種の葉面AMPs捕捉能も明らかにしていくことなどを含め、より効率的なAMPs対策を確立する必要があるとしている。