物質・材料研究機構(NIMS)、Seagate Technology、東北大学、科学技術振興機構(JST)の4者は3月27日、データセンターの記録装置として用いられるHDDにおいて、磁気記録媒体を三次元化することで多値記録が可能であることを実証したと発表した。
同成果は、NIMS 磁性・スピントロニクス材料研究センターのP.Tozman特別研究員、同・高橋有紀子グループリーダー、SeagateのThomas Chang研究員、東北大のSimon Greaves教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、「Acta Materialia」に掲載された。
インターネットを行き交うデジタル情報の増大に伴い、データセンターの記録容量の大容量化も求められているが、その実現にはHDDのさらなる高密度化が必要となる。現在の市販HDDの記録密度は1.5Tビット/inch2ほどだが、米Advanced Storage Research Consortiumが発表したロードマップによると、2028年には4Tbit/in2、そして2034年には10Tbit/in2の実現が求められている。
HDDはデジタル情報を記憶する磁気記録媒体、情報の書き込みや読み出しを行う磁気ヘッド、磁気ヘッドの位置決めをするサーボ技術など、いくつもの技術が用いられているが、さらなる高密度化の実現には磁気記録媒体の高密度化を実現する必要がある。
現在は、ビットの磁化を垂直に配向させる垂直磁気記録方式が用いられているが、4Tbit/in2を実現するには、磁気記録媒体の温度を上げて書き込みを行う「熱アシスト磁気記録(HAMR)方式」が必要とされている。そうした中、HAMR方式用として、記録密度を現在の1.5Tbit/in2よりも増やすことができる磁気異方性(強磁性体中の磁気モーメントの向きによって内部エネルギーが異なる性質)の高い鉄白金(FePt)系媒体のプロトタイプを2008年に開発したのがNIMSとSeagateであり、Seagateは2020年にその技術の実用化を果たしている。
しかし、FePt粒子のサイズが4nm以下になると、熱によって磁化が揺らぎ始めるため、現行のHAMR方式では10Tbit/in2を実現することは困難だという。そのため、10Tbit/in2を実現する新たな原理に基づく磁気記録方式の提案が望まれていたとのことで、今回の研究では記録層を立体的に積層する三次元磁気記録方式を提案することにしたとする。
現行の磁気記録のビットの配置は二次元的だが、今回提案された三次元磁気記録方式では、膜の垂直方向にもビットが配置されることになる。各磁気記録層の「キュリー点」(強磁性体が常磁性体に変化する温度)に絶対温度100K程度の差を持たせ、書き込み用のレーザー出力を調整することにより記録は行われる。今回の研究では、記録媒体の材料としてFePtが用いられ、上下2つのFePt層を磁気的に独立させるためにルテニウムをスペーサー層として用いた三次元FePt媒体の作製に成功したという。
その磁化曲線と熱磁気曲線が調べられたところ、上下FePt層それぞれに対応する2つの磁化反転とキュリー点が観測されたとした。これはレーザー出力を調整することにより、上下のFePt層に書き込みが可能であることが示されているとする。また、作製されたFePt媒体の微細組織と磁気特性に基づく書き込みシミュレーションでは、多値記録が実証された。
HDDの三次元磁気記録方式が実用化されれば、記録容量を増加させることが可能となり、その結果、より少ないHDD台数でより多くの情報を格納できるようになる。研究チームは今後、FePt粒子のダウンサイジング、上部FePt層の配向および磁気異方性の改善、FePt層のさらなる多層化などの開発を進め、高密度HDDとして実用化に適した媒体構造の実現を目指すとしている。