自閉スペクトラム症(ASD)の新たなモデルマウスを作製し、このマウスの実験でASD特有の行動変化の一部を薬剤投与で改善できることを確かめたと、理化学研究所(理研)や順天堂大学、東京大学の共同研究グループが26日、発表した。増加傾向にあるASDの理解や治療法の開発につながる成果と期待される。
研究グループは、理研・脳神経科学研究センターの中村匠研究員、髙田篤チームリーダーや順天堂大学大学院医学研究科の加藤忠史主任教授、東京大学大学院総合文化研究科の坪井貴司教授らで構成された。
ASDは発達障害の一つで、社会的コミュニケーション力や共感性に難しさを抱え、限定された興味やこだわり行動などが特徴で近年増加傾向にあるとされる。厚生労働省によると、ASDの人は人口の1%に及ぶと言われる。多くの遺伝的な要因が関与するが、行動特性は多様で、個々人の特性に合った療育、教育的支援が重要だという。
理研などによると、最近の米国での疫学調査では8歳の子どもの2.8%がASDと診断され、さまざまな関連遺伝子が明らかになっている。
中村研究員らの共同研究グループはまず、有力なASD関連遺伝子とされる「KMT2C遺伝子」に着目。関与が示唆されながら症状との関係がよく分かっていなかった、この遺伝子が欠損したASDの新たなモデルマウス(KMT2C遺伝子変異マウス)をつくることに成功した。
そしてASDのモデルマウスは野生型マウスと行動変化を比べる実験を行った。すると、ASDマウスは、知らないマウスがいるケージに興味を示さない傾向が顕著で、飲水コーナーを毎日変更する行動パターンのルールを変えると柔軟な対応力に欠けるといったデータが得られた。このことから新たに作ったモデルマウスがヒトのASDの行動、症状などの研究に有効であることを確認できたという。
また、モデルマウスの脳は、KMT2C以外のASDに関連するさまざまな遺伝子が発現し、それぞれの遺伝子に基づいて多様なタンパク質が合成されていることが判明。研究グループはこうしたASD関連遺伝子の発現が症状に関係している可能性があるとしている。
共同研究グループはさらに、KMT2C遺伝子の欠損の影響を打ち消す効果があると考えられる物質である「ヒストン脱メチル化酵素(LSD1)」阻害剤「バフィデムスタット」をモデルマウスに4週間飲水投与する実験を行ったところ、ASD特有の行動の一部が改善し、モデルマウスで上昇していたASD関連遺伝子発現が低下していた。
中村研究員らは、LSD1阻害剤のバフィデムスタットは薬剤としてASDのほか一部の精神神経疾患の治療効果も期待できるとしている。研究成果は26日の英科学誌「モレキュラー・サイキアトリー」電子版に掲載された。
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