isapceは3月28日、海外機関投資家の拡大による株主構成の多様化と、株式流動性の向上を図ることを目的とした新株式発行の海外募集により、約83.6億円の資金調達を行ったことを明らかにした。

今回の資金調達は、2023年12月時点で約97億円という一定額の手元資金を確保しているものの、今後、2024年冬の打ち上げを予定しているミッション2用ランダー「RESILIENCE」(シリーズ1ランダー)、2026年に予定している商用化を見据えたランダー「APEX1.0」(旧シリーズ2ランダー)、そして2027年の打ち上げを見据えた「シリーズ3ランダー」の3機がほぼ同時並行の形で開発を進めていくうえで、現在の資金だけではすべての開発を賄うことは困難との判断から実施された。

  • 海外募集による資金調達の概要

    海外募集による資金調達の概要 (C)ispaceン

ispaceの袴田武史代表取締役CEO&Founderは、「複数ランダーを同時に開発することは重要なことで、各ミッションで得られた経験やノウハウをただちに次のミッションにフィードバックすることが可能となり、民間企業ならではの強みにつながる」と、この並行開発こそが民間で宇宙開発を推進するメリットだとする一方、「これを実現するためには、それを支えるだけの資金と財務基盤が必要となる。今回の募集はそのための取り組みの1つ」と、それを成しえるだけの企業体力を同時に維持し続けることの重要性を強調した。

  • ispaceの袴田武史代表取締役CEO&Founder

    資金調達に関する説明を行ったispaceの袴田武史代表取締役CEO&Founder(左)

今回獲得した資金は発行諸費用を控除すると手取りで約81億円。その内訳としては、約18億円をAPEX1.0のリレー通信衛星2機の購入代金の一部、約21億円を打ち上げサービス購入代金の一部、約32億円をAPEX1.0ランダーの製造費用の一部、その他約10億円としている。シリーズ3ランダーについては、2023年10月に日本の経済産業省の「中小企業イノベーション創出推進事業」の対象事業に採択され、最大120億円の補助金が支給されることが決まっている。今回獲得した資金は、年内にも打ち上げ予定のミッション2と、日本政府からの資金援助を受けるシリーズ3ランダーの打ち上げとなるミッション6の間をつなぐためのものとなる。

  • ispaceのランダー開発体制
  • ispaceのランダー開発体制
  • ispaceのランダー開発体制
  • ispaceのランダー開発体制と今回調達した資金の主な使用用途の概要 (C)ispace

すでにRESILIENCEについては、AIT(Assembly Integration & Testing)工程に進んでおり、2024年春ごろには機体が完成する予定。その後、米国に輸送され、2024年の冬の打ち上げを目指すこととなる。ミッション1では、月面への最終降下フェーズまで行ったものの、ソフトウェアの誤作動により着陸に失敗。RESILIENCEでは、すでにその問題を解決済みで、袴田氏も「ミッション1では各種データの取得ができており、これらの知見はミッション2以降に活かせるものだ」としている。

  • 2024年冬の打ち上げを目指すRESILIENCEランダー

    2024年冬の打ち上げを目指すRESILIENCEランダーは2024年春には完成する予定だという (C)ispace

なお、同社ではペイロード輸送ビジネスの顧客状況として、すでに最終合意まで至った契約金額は、売り上げ計上済みのものも含め約148億円に加え、最終契約にまでは至っていないが、MOUなどに基づく潜在売上金額が約462億円としており、政府機関のみならず欧米を含めた11カ国の民間企業とも契約を締結済みとのことで、各国政府の宇宙活用を後押しする政策なども追い風に、今後の事業拡大を図っていきたいとしている。