エーザイが認知症薬の普及へ 皮下注製剤や検査体制の整備などにも注力

「我々はAD(アルツハイマー病)領域の旗手。新しい医療の道を切り拓く気概をもっている」─。こう強調するのはエーザイCEOの内藤晴夫氏。同社が米バイオジェンと共同開発したAD治療薬の「レカネマブ」が昨年末から実用化されているが、同氏は診断から治療のパスウェイ構築にも注力している。

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 注目されているのが新たなAD治療薬「E2814」の開発。30年度に米国での承認取得を目指していると明言した。同薬はADの原因と考えられている、たんぱく質「タウ」を標的にした抗体だ。一方のレカネマブは脳内に蓄積した、たんぱく質「アミロイドベータ」を標的とする。

 タウとアミロイドベータとはAD病の2大病理とされており、E2814が実用化すれば、エーザイはAD領域における2大病理を克服する医薬品を抱えることになる。内藤氏はAD病の「治癒も視野に入る」と語る。

 また、レカネマブも進化する。同薬は点滴による投与で、投与対象者も事前に陽電子放出断層撮影(PET)か脳脊髄液(CSF)の検査で、脳内にアミロイドベータがあるかどうかを調べなくてはならない。

 そこでエーザイは自己注射が可能な皮下注製剤の初期・維持療法や微量の血液でアミロイドベータの有無が判る血液バイオマーカーによる確定診断の実用化に向けた研究開発も進めている。患者や家族が自宅でレカネマブを投与できるようになれば、患者の近隣の「かかりつけ医」による診断・治療も可能になる。

 また、検査体制の強化においては、米バイオ企業のC2Nダイアグノスティクスに最大1500万ドル(約22億円)を出資する。同社は特殊な質量分析技術を使って、アミロイドベータの脳内蓄積を血液で調べる技術を開発。米国では既に診断支援サービスの一種として医療現場などで使われ始めている。

 さらに同社は中国市場の開拓にも乗り出す。先行する米国や日本と違って、中国ではPETやCSFの検査環境が未整備。「診断の最初から血液バイオマーカーを活用する」(同)考えだ。

 エーザイはレカネマブの売上高が32年度には1兆円超になると予測する。メガファーマと鎬を削る中で、中堅としてAD領域で一味違う存在感を放てるか。内藤氏の手腕が問われる。