ホタテの貝殻を焼いて粉末にしたものを家畜の糞に混ぜ込むことで、家畜が持つ薬剤耐性菌を減らせることを、酪農学園大学(北海道江別市)らのグループが発見した。家畜動物に使える抗生物質は種類が少ない上、ヒトと動物が同じ感染症を発症する「人獣共通感染症」が起こった場合に感染抑制できなくなるリスクがあり、家畜の薬剤耐性菌を環境中に放出しないことが求められていた。今後、産学連携で粉末の商用化を目指すという。
薬剤耐性菌はヒトの場合も、院内感染など大きな社会問題となっており、一部の病院では抗生物質を減らすために薬剤師主導で投薬制御が実施されている。薬剤耐性菌はヒトだけでなく動物にとっても問題があるとされてきた。ヒトと動物はあまり同じ病気にかからないとされるものの、一度共通して感染すると、狂犬病やエボラウイルスなどヒトにとって脅威となる疾患が多い。ゆえに、ヒトと動物の「敷居」を設けておくことが、公衆衛生の維持にとって重要とされる。
酪農学園大学獣医学群の臼井優(まさる)教授(獣医学)らのグループは、地元北海道の漁師が「ホタテの貝殻を処分するのに、産業廃棄物にしかならずコストがかかる」と嘆いていることを聞き、有効活用できないかと今回の研究に取り組んだ。他の研究でホタテ貝を約700度で焼き、粉末状にしたものに殺菌効果があることが分かっていたため、畜産に応用することにした。
ウシは放牧のスタイルもあるが、豚やニワトリは一つの建物において集団で飼うので、一度伝染病が発生すると農家にとって大きな打撃になる。これらの家畜に限られた種類の抗生物質を投与してきた結果、既に数種類の薬剤耐性菌が確認されている。例えば豚の糞に含まれる大腸菌の約6割が薬剤耐性を持つというデータもある。糞便が肥料となって環境に広くまかれると、巡り巡ってヒトへの脅威にもなりかねず、問題だった。
家畜の糞便はおがくずやもみがらと混合することで微生物による好気発酵が起こり、60~70度まで温度が上昇し、その後堆肥になる。だが、例えば酪農学園大学がある江別市の年間平均気温は約7度と低く、マイナス何十度という冬場は特に堆肥の温度が上がらず、菌が残りやすい。また、糞便の水分量が異なると発酵の度合いも変わる。
そのため、環境を選ばず殺菌できるよう、臼井教授はホタテの貝殻を加工した粉末を取り寄せ、豚とウシの糞便を対象に様々な環境下でどのくらいの量を添加すれば薬剤耐性菌が検出限界以下になるか実験した。なお、ニワトリの糞は発電所で焼却処理することが多く、環境排出されにくいとして実験対象から除外した。その結果、糞便の量に対して4パーセントの粉末を混ぜ込むとすぐに、緑膿菌や黄色ブドウ球菌といった薬剤耐性菌がほぼ殺菌できることが分かった。1週間以上経っても菌が再び増えることもなかったという。
臼井教授は今後、産学連携で焼成したホタテ貝殻粉末の商用化を目指すという。糞の処理にコストがかかりすぎると食肉の価格に反映されてしまい、消費者が困る。北海道からの発送は輸送コストもかかる。そのため、「費用を抑えながら、研究を通じて循環型社会の中で『人間の健康を守るために動物の健康を守る』というワンヘルス・アプローチの考え方を浸透させていけるような手法を考えて実用化したい」とした。
研究は日本学術振興会の科学研究費補助金の助成を受けて行われた。成果はオランダの科学誌「エンバイロンメンタル テクノロジー アンド イノベーション」電子版に3月2日に掲載され、同11日に酪農学園大学が発表した。
関連記事 |