大阪公立大学(大阪公大)、徳島大学、名古屋大学(名大)の3者は3月25日、働いた場所に仙椎と後ろ足の両方を形成させる遺伝子「Gdf11」が働くタイミングを制御するDNA領域(「HCR領域」と命名)を発見し、25億あるマウスのゲノムの塩基(DNA)数のうち、たった1700bpの領域で胴体の長さが決められていることがを明らかにしたと発表した。
同成果は、大阪公大大学院 理学研究科 生物学専攻の鈴木孝幸教授、徳島大 先端酵素学研究所の竹本龍也教授、名大大学院 生命農学研究科の飯田敦夫助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、生命の基本的な生物学的プロセスに焦点を当てた学術誌「Frontiers in Cell and Developmental Biology」に掲載された。
人類を含む脊椎動物の発生過程(受精卵(胚)が細胞分裂を繰り返してさまざまな組織や器官を形成していくこと)では、最初に頭部が形作られ、続いて胴体、最後に尾が作られる。この形態形成過程において、身体の中心には背骨を構成する脊椎骨が形成される。背骨は、形態の違いによって、頭側から頸椎(けいつい)・胸椎・腰椎・仙椎(せんつい)・尾椎(または尾骨)がある。また手足の間は胴体となり、胴体の長さは種によって異なり、この違いが脊椎動物の見た目の違いとなっている。
種によって胴体の長さは異なるが、後ろ足が骨盤を介して必ず仙椎に接続しているという点は共通であり、この仙椎の位置に必ず後ろ足を形成させるという遺伝子として、研究チームがこれまでの研究で発見したのがGdf11。遺伝子が働くことを「遺伝子の発現」というが、Gdf11は、頭から順番に形を作っていく発生過程の中で、特定のタイミングで発現を開始し、発現した場所に仙椎と後ろ足の両方を形成させる。また同遺伝子の発現するタイミングは種によって異なるが、研究チームはやはりこれまでの研究の中で、ヘビのように胴体の長い種ほど、同遺伝子が発生中に発現するタイミングは遅くなることを発見していた。
しかし、Gdf11が発現するタイミングを決める仕組みはこれまで不明だった。そのため研究チームは、同遺伝子の発現を制御する仕組みを明らかにできれば、胴体の長さの違いを生み出した進化の分子基盤の解明につながると考えたという。Gdf11はすべての脊椎動物に存在する遺伝子だが、上述したように後ろ足と仙椎の位置は種によって異なる。そのため、Gdf11が発現する仕組みは、種間で保存された共通の仕組みと、胴体の長さの違いを生み出す原因となる、種間で異なる仕組みの2つがあるのではないかと仮説を立てたとする。そこで今回の研究では、「種間で共通の仕組み」の解明に取り組むことにしたという。
一般に遺伝子の発現は、遺伝子の転写量を増加させるDNA領域である「エンハンサー」によって増幅されることから、今回の研究ではGdf11のエンハンサーの探索が行われた。ヒトやマウスなどの哺乳類から、鳥類、爬虫類といった手足を持つ脊椎動物のDNA配列の複数種比較が行われた結果、Gdf11の発現を制御していると予測される約1700bpのDNA領域を第1イントロン内に発見し、「HCR領域」と命名したとする。
次に、HCR領域がGdf11の発現を制御しているエンハンサーなのかどうかを確認するため、HCR領域を欠損させたマウスが作製され、Gdf11の発現場所や量に変化があるのかどうかが調べられた。その結果、予想された通りに同領域を欠損したマウスでは、Gdf11が正常に発現できなくなり、発現量が減少していることがわかったという。また、同領域を欠損したマウスでは、胸椎と腰椎が1つずつ増え、後ろ足と仙椎の位置が合計で脊椎骨2つ分、尾側にずれていたとした。つまり、胴体が脊椎骨2つ分伸びていたのである。
脊椎動物は後ろ足と仙椎をセットで形成するという関係を保持しながら、その形成される位置、つまり胴体の長さを変えることで、体型の多様性を増やしてきた。研究チームは今後、Gdf11の発現制御機構のうち、種間で異なる機構の解明に挑む予定としており、脊椎動物の形の保存性を保ちつつ、骨格パターンの多様性を生み出した進化のメカニズムの本質をDNAレベル・分子レベルで具体的に解明できることが期待されるとしている。