戸田工業と鳥取大学の両者は3月25日、戸田工業が独自に開発した酸化鉄の一種である「ナトリウムフェライト」(NaFeO2)が、ポスト・リチウムイオン電池(LIB)の1つとして期待される「ナトリウムイオン電池」(SIB)の負極として優れた特性を示すことを発見したと共同で発表した。
同成果は、戸田工業の渡邊浩康氏、同・黒川晴己氏、鳥取大 工学部 化学バイオ系学科の薄井洋行准教授、同・道見康弘准教授、同・坂口裕樹教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、2023年11月30日に開催された「第64回電池討論会」にて発表された。
ナトリウム(Na)は海水中にほぼ無尽蔵に存在し、安く大量に入手できるため、SIBは大型の定置用電源にふさわしい安価な蓄電池として期待されている。また海外では、電気自動車用電源としての実用化も進みつつある。その負極には炭素系材料が使用されているが、高エネルギー密度化のため、より多くのNaを吸蔵できる負極材料が求められている。
酸化鉄(Fe2O3)は非常に大きいNa吸蔵-放出量(理論容量:1007mAhg-1)を有することから、SIBの負極材料として期待されているが、充放電サイクルを繰り返すと凝集してしまうことで、電極の耐久性が低くなるという課題を抱えていた。
これまで研究チームは、戸田工業が独自に開発したFe2O3微粒子とアンチモン(Sb)を複合化させることで電極の集電性が向上し、同微粒子の凝集が抑制されることでサイクル寿命を改善できることを確認していた。しかしSbは希少金属のため、研究チームはそれを使わずに酸化鉄単独での課題解決を目指して、種々の酸化鉄系材料の開発に取り組んだとする。
今回の研究では、戸田工業が独自に開発した、燃焼排ガスなどに含まれるCO2吸収材のNaFeO2が、SIBの負極として充放電が可能なことが見出された。また同材料であれば、Fe2O3のみを負極に用いた場合の課題だった耐久性の低さ(短い充放電サイクル寿命)を酸化鉄単独で克服できることも確かめられたという。
研究チームは次に、正極としての充放電特性をコイン型セルを用いて評価したとのこと。NaFeO2にはα型とβ型の2種類があるが、α型は充放電反応を示すのに対し、β型はまったく充放電しないことが確認された。これは、層状構造を有するα型ではNa拡散経路を介してのNaの放出-吸蔵反応(インサーション反応)が可能となるが、拡散経路の無いβ型はNaの放出-吸蔵ができなかったためと考えられたとしている。
次に、負極としてNaFeO2電極の充放電評価試験を実施。すると、α型もβ型も充放電反応を示したという。両者は結晶構造が大きく異なるにも関わらず、類似した充放電特性が得られた理由について、研究チームは、コンバージョン反応(Na吸蔵に伴い相分離が進行する機構)に基づいて充放電が行われたためと考察した。
そこで充放電後の負極の構造を調べたところ、予想通りに結晶構造の種類によらず、最初の充電時において不可逆的な相分離(NaFeO2→Fe2O3+Na2O)が起こることが確認され、コンバージョン反応に基づく充放電機構が進行していることが解明された。つまりNaFeO2は、正極とは異なるメカニズムで負極として動作していたのである。なお、NaFeO2負極の場合は、相分離で生じた酸化ナトリウム(Na2O)がFe2O3の凝集を軽減することで、課題を解決できたものと考えられるという。
しかし、最初からFe2O3とNa2Oを混ぜて負極を作製しても、良好な負極性能を得られないことが判明。つまり、NaFeO2を出発物質として充電時の相分離反応により、Fe2O3とNa2Oが微細なスケールで混在した組織を形成させることが重要であることが推測された。また、種々の性状を最適化したβ型のNaFeO2からなる負極においてはコンバージョン反応が促進され、従来のFe2O3/Sb複合負極や炭素系負極を上回る優れた負極性能が得られることが見出された。以上の結果より、NaFeO2が有望な負極材料となり得ることが確かめられたのである。
同じ材料であっても、負極と正極とで異なるNa吸蔵-放出機構で充放電動作を行うという実験結果は、同じ材料を負極と正極に用いてSIBを構成できる可能性が示されているとのこと。そこで、その考え方に基づきα型のNaFeO2を負極および正極に用いたフルセルが構築され、充放電特性が評価された。すると、NaFeO2負極とNaFeO2正極からなるフルセルを可逆的に充放電させることに成功したという。また、負極をβ型のNaFeO2に替えたフルセルにおいても同様の充放電特性が得られることが確かめられたとした。
今回の研究ではNaFeO2を使用することで、ほかの金属との複合化を行うことなく、その高容量を効果的に引き出せることが発見された。現在のLIBには高価なコバルトやニッケルが使用されているが、今回の研究では安価で資源豊富な鉄系材料を負極と正極に用いてSIBを構築できることが実証されたことから、Na自体も安価で資源豊富であるため、今回の研究の知見が安価なSIBの普及に貢献するものと期待されるとしている。