「『あのホテルに行けばサウナが楽しめる』といったような目的型サービスを心がけました」─。外食のロイヤルホスト、サービスエリアなどのレストランを経営するロイヤルホールディングス会長の菊地唯夫氏はこう語る。それまで同グループの特徴は〝立ち寄り型〟が多かった。例えばホテル事業では、どこかに行ったついでにホテルに泊まるという事業形態だった。それを「あのホテルに泊まりたい」といった目的型サービスへと進化させる。新たなホテルの在り方を提案する同社の戦略とは─。
目的型サービスを極めるリッチモンドホテルの進化
「何かのついでの〝立ち寄り型〟からそこへ行くという〝目的型〟へサービスを進化させる」とロイヤルホールディングス会長の菊地唯夫氏はグループの事業についてこう語る。
現在同社が運営するリッチモンドホテルは、全国43店舗(FC合わせ47店舗)を展開。売上高は295億円、経常利益は27億円(2023年12月期)事業割合としては全体の2割を占める。同ホテルは常にランキング上位に位置してきた。
日本生産性本部の顧客満足度指数年間調査によると、2018年度まで同ホテルは4年連続1位。2019年度以降はドーミーインにその座を奪われているが、2022年は0.5ポイントの差で2位の位置。
J.D.パワージャパンによる『J.D. パワー 2023年ホテル宿泊客満足度調査SM』でも、正規料金の最多価格帯9000円以上1万5000円未満クラスで2位。オリコン顧客満足度ランキング(2020年5月オリコン調べ)ではビジネス、観光の各カテゴリーともに1位であり、各第三者機関の調査では1位と2位を行ったり来たりしている状況。同ホテルの顧客満足度が高い理由の特徴として、丁寧に教育されたスタッフの接客の質、次回以降の宿泊割引やグループ内での商品券交換につながるポイントプログラム等の充実が挙がる。
また、ビジネスホテルはバス・トイレのユニット型が多い中、独立していることも特に女性の支持が高い。
しかし、2023年の決算発表では、ホテル事業の収益はコロナ前の2019年比で稼働率82.9%であり、これを打破するための施策が進行中。単なる泊まるという行為だけではなく、新たな体験や文化の学びが可能で、顧客が目的を持ち〝泊まりにいくホテル〟へと進化させるため、改装等の設備投資を進めている最中だ。
その一つが2022年12月にリニューアルオープンした「リッチモンドホテルプレミア東京スコーレ」。同ホテルの特徴の一つが、サウナ付きの客室。設備はサウナの本場フィンランドのものを使用した本格的なもので、大浴槽と水風呂やととのいスペースも備える。上がったあとにはベッドで休んだり映画を観ることも可能。
昨今続くサウナブームで都内の人気サウナ施設が行列していることを見れば、泊まることが主目的ではない顧客層も取り込める。これまで東京都民が都内のビジネスホテルに宿泊するという行為はなかったはずだが、新たなホテルの使い方として潜在ニーズを汲み取っている。
これ以外にも、多数の書籍が客室に備わった〝本が読める客室〟や、〝ゲーム・映画・ライブ映像に没頭できる部屋〟、海外の顧客が喜びそうな〝日本文化を感じる茶室をコンセプトにした部屋〟など、カルチャー体験に特化したコンセプトルームがある。
もう一つの特徴としては人と人の交流が起こるシェアラウンジがあること。ここでは食べ物やアルコールを含むドリンクが食べ放題で、カフェ利用や仕事ができるスペースも備える。
ラウンジとコンセプトルームは、TSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブが空間デザインを担当し、ビジネスホテルとは一線を画す洗練されたデザインのつくり。同ホテルは1泊1万5000円~4万2000円の価格帯だが連休は早くに満室となる。
現在ホテル業界での宿泊単価は高騰中で、2019年の平均1万7682円から、2023年は平均1万9354円となっている(宿泊料の推移、小巻(2023、東京財団政策研究所))。
その中で、同ホテルは平均以下の価格帯からの設定。こういったコストパフォーマンスに優れる点もリッチモンドホテルがランキング上位に座り続ける理由の一つである。
地方の特色も活かして
地方の同ホテルも地域の特色を生かした体験型サービスを開始。京都のリッチモンドホテルプレミア京都四条では、「舞妓体験」「利き酒体験」「風呂敷体験」の他に、書道・茶道・浴衣等のたくさんの日替わりワークショップを23年8月から開始した。宿泊者は無料で楽しめ、日本文化を学び楽しむ拠点になっている。
ラウンジでは宿泊者向けにスイーツの提供やアルコールの提供も行われる。飲食の充実はロイヤルがもつ飲食事業とのシナジーを発揮している。
その他、全国各地の同ホテルでも続々とリニューアルが進む。青森では、伝統工芸の津軽金山焼や津軽びいどろなどのインテリアや食器を使用、長崎では中国とオランダと日本の文化をコンセプトとした客室や波佐見焼の茶器を使用するなど、滞在中に日本各地の地域文化や歴史を体感できることを新たな付加価値としている。
「こういった目的型サービスが大事であると考えています。どこかへ行くことが目的ではなくて、あそこに泊まってみようという主目的をつくる」と菊池氏。
2022年から全国の客室・共用部・レストランの改装に加え、全棟Wi-Fiと客室TV入替をして設備投資を進めている。同社のホテルの新たな使い方の提案で、潜在ニーズの掘り起こしが進む。