日本のフードロスは年間500万トン以上。まだ十分に食べられるものが、業界ルールや経済的事情により廃棄されてしまう。「お蔵入りになってしまうものに、新たな付加価値を乗せ、別市場へ出す」のが社名クラダシの由来。「今SDGs教育を受けている若い世代が成長して経済を回す消費者になった頃、真のエシカル消費が始まる」そう語るのはクラダシ社長の関藤(せきとう)竜也氏。若い世代で何が起きているのか─。
フードロスをなくし、もったいないを価値へ
SDGs目標にもあるフードロス削減に取り組むクラダシ。社会の関心と需要の高まりを受け、2023年6月30日に東証グロース市場に上場した。売上高前年比1.7倍、2023年6月期売上30億円を見込む。
同社が2021年月に実施したSDGs意識調査では全体7割が「SDGsを知っている」と回答。サービスや製品を購入する際、その選択にSDGsが影響する人は57.3%であった。年代別にみるとSDGsへの認知度が最も高かったのは10代で90.5%。
この数字の背景には、数年前から全国の小学校から大学でSDGs教育が盛んに行われているということがある。SDGs目標への取り組みは企業側の努力だけでなく、消費者側の選択にも責任が伴う。こういったエシカル消費(倫理道徳的消費)が当たり前になっていく時代がすぐそこまできている。
実際、クラダシにも調べ学習をする小学生や中学生からの問い合わせや、会社見学が増えており、毎年その数は増えているという。
「今SDGs教育を受けている若い世代が成長して経済を回す消費者になった頃、真のエシカル消費が始まる。そのときに、環境への意識がない企業は選ばれなくなる。今まで重視されていなかったことが重視され始めた。起業した2014年からビジネスモデルを変えていないが、当時同じ話をしても誰も見向きもしなかった」と関藤氏。
クラダシはフードロスの要因を「①製造過程で生じる規格外品②季節品・終売品の売れ残り③天候不順や予測外しによる過剰在庫④3分の1ルール」と分析。「3分の1ルール」とは、製造日から賞味期限までを3等分し、納品・販売期限を設ける商習慣である。期限内に収められなかったり、販売できなかったりすると返品され、結果的に廃棄されてしまうというものである。これらの要因により、日本の食品ロスは522万トンとなっており、これは日本人1人当たり毎日お茶碗一杯分のお米廃棄と同等量とされる。
どこの企業も廃棄したくてしているものなど一つもない。しかし、ロスを0にするために全てのメーカーが完全受注制を取れば、経済が縮小し消費者の生活にも支障をきたす。クラダシはどうしても生じてしまうロスを、既存の市場流通を介さないことでブランドイメージと市場価格を破壊せず、むしろ価値を与える仕組みを確立した。
SDGs、脱炭素化を目指さないといけない社会の流れで、在庫廃棄問題にメーカーは目を背けられなくなっている。今やSNSによる内部告発がいつでも事件の発端にもなりうる時代に「安心材料としてクラダシを使って欲しい」と関藤氏。
起業時100社であったパートナー企業の数は、現在1300社以上となり、その多くが大手企業。若い世代が消費側にまわる時代までに、企業は今までのやり方を見直し変化することが求められている。
原体験から生まれたビジネスモデル
「前職商社で中国駐在時代に見た光景が大変ショッキングだった」と関藤氏。1998年頃、中国は世界の工場と言われていた時代。例えば唐揚げ一つでも、カットの規定量が少しでもずれた食品、ミスにより発生してしまった大量の品は全て廃棄となる。
そこに至るまでにたくさんの生物界の命をいただき、多くの人が関わり作られた食品が、全て大量破棄される現実。工場現場で働く人は、その現状を見て胸が痛んでいても成す術もない。
関藤氏は誰もやる人がいないなら自分がやらなければという使命感で、日本に戻りフードロス削減の取り組みを始めた。
一般的にソーシャルビジネスは社会課題解決と経済性を両立させるのが難しく、ビジネスとして成立させることは難しい分野であると言われる。
「社会課題解決をビジネスとしてやるにはコストパフォーマンス・タイムパフォーマンスが悪いと言われていて皆やりたがらない。でも誰もやらないからこそ商機があると諦めないで、ここまでやり続けてきた。タイミングとやり方次第で両立は可能」と関藤氏。
さらにクラダシのユニークな事業モデルは、売り手よし、買い手よし、社会よしの「三方よし」循環型ビジネスであるという点である。
ユーザーはECサイト「Kuradashi」を通じてお得にお買い物をし、フードロスを削減できるだけでなく、購入金額の1%〜5%を社会貢献団体の支援に充てられる。
寄付先は消費者自身が選ぶ。会員マイページでは、自分の社会貢献度がゲーム感覚でわかるようになっている。自分のための買い物を通して、楽しんで社会貢献ができることが会員にうけ、3月末時点の会員数は46.2万人。
また、売上の一部を基金として地方創生事業にも取り組む。人手不足の地方農家に大学生を派遣し、その交通費や宿泊費の費用はクラダシがもつ。省庁や地方自治体とも連携を進め、地域のフードロス削減の出口戦略を担っている。
全体購入件数の8割以上がリピート会員。会員にサステナブルな取り組みを詳細に伝えることができるため、スーパーで売れない物でも、クラダシなら売れるという事象が発生している。クラダシのプラットフォームには、クラダシの価値観に共鳴したユーザーが集まり、一つのコミュニティができている。このプラットフォームをどこまで拡大できるか。「もったいないを価値へ」を掲げるクラダシの今後が注目される。