日本コカ・コーラは3月25日、サステナビリティの取り組みの一環として、高齢者や障がいを持つ人々でも便利に同社の自動販売機を利用可能にするため、コカ・コーラ公式アプリ「Coke ON」のアクセシビリティ機能を拡充した新バージョンを公開したことを発表した。

  • アクセシビリティ機能を拡充した「Coke ON」の新バージョン

    「Coke ON」のアクセシビリティ機能を拡充した新バージョンが発表された(出所:日本コカ・コーラ)

また同アプリのアクセシビリティ改善の取り組みとして、ミライロが提供する障害者手帳の所有者を対象としたデジタル障害者手帳のスマホアプリ「ミライロID」との連携による「Coke ON 障がい者割引」などの機能を、4月8日より開始することも併せて発表された。

発表に際し、日本コカ・コーラは記者会見および新機能体験会を開催。新機能を通じたアクセシビリティの改善をアピールするとともに、これまでの自販機の変遷を踏まえながら、「もっとみんなの自販機へ。」をメッセージに据えた同社のサステナビリティ戦略について語られた。

  • 記者会見の様子

    記者会見に登壇した日本コカ・コーラの田中美代子副社長、ミライロの垣内俊哉代表取締役社長、日本コカ・コーラのレハン・カーンバイスプレジデント、同社 マーケティング本部の宇川有人氏(左から順)

  • Coke ON新機能のデモ体験会が行われた

    Coke ON新機能のデモ体験会が行われた

自販機による「社会共生・社会貢献」を目指す日本コカ・コーラ

2021年に東京オリンピック(東京2020)が開催され、2025年には大阪・関西万博の開催を控える日本では、“バリアフリー”に向けたさまざまな取り組みが進められている。こうした流れはただの心がけに留まらず、法令などによる徹底も進められていて、2024年4月1日より施行される「改正障害者差別解消法」では、事業者に対して障がいを抱える人への合理的配慮の提供が義務化されるなど、まさに社会変化の真っただ中にある。

日本コカ・コーラは、これまでにもさまざまな障がい者支援の取り組みを進めており、特に自販機の開発においては、2000年に業界に先駆けて点字表示を採用するなど、ユニバーサルデザイン化を積極的に推進。省エネルギー化やキャッシュレス化、災害時の活用など、「社会共生・社会貢献」に寄与する自販機を目指してきたという。

  • コカ・コーラの自販機の進化・変遷

    コカ・コーラの自販機の進化・変遷(提供:日本コカ・コーラ)

そして2016年には、自販機と連携することでサービスを進化させるスマホアプリとして「Coke ON」を提供開始。飲料メーカーの面から見れば“消費者とつながるオウンドメディア”として、一方で小売業の面からは“サービス向上のためのデジタル活用ツール”としてのメリットを発揮し、日本コカ・コーラの自販機を成長させてきたとする。

  • Coke ONおよび自販機の過去実績

    Coke ONおよび対応自販機の過去実績(提供:日本コカ・コーラ)

障がい者から寄せられた想いで隠れた課題が浮き彫りに

身近な場所に数多く存在し、今や社会インフラの一種ともいえる自販機だが、普及が広がる一方で、障がいを抱える人々にとっては利用障壁が未だに残されていた。そこで日本コカ・コーラは、高齢化や前出の法令改正などを見据え、Coke ONを活用した自販機のアクセシビリティ改善に注力しているという。

この取り組みに際し同社は、ミライロと共同で2022年に「障がい者の飲料購入に関するユーザー調査」を実施。その回答の中では、利用者が“スマホで購入できる”などといったメリットを感じている一方で、“自販機が見つけられない”や“自販機とスマホの接続が難点”などの課題、さらに“Coke ONでの飲料選択が難しい”など、飲料購入時における課題が浮き彫りになったとのことだ。

こうした結果を受け、日本コカ・コーラ マーケティング本部 IMX事業本部 デジタルプラットフォーム部の宇川有人ディレクターは「Coke ONのサービスが視覚情報に頼ったものであることを思い知った」と語る。さらにさまざまな課題が見えてきた中で、1年半かけて新たな機能を開発。自販機を見つけるところから、商品を購入する時まで、全体をサポートするアプリへの進化を実現したとする。

視覚・触覚・聴覚の情報でアクセシビリティを向上

今回のアップデートでは、アプリ操作画面の視覚情報だけでなく、スマホのバイブレーションという触覚情報、音声読み上げ機能などの聴覚情報を活用することで、より多くの人々が自販機を利用できるようにしたという。

  • 自販機アクセシビリティ機能の概要

    今回追加される自販機アクセシビリティ機能の概要(提供:日本コカ・コーラ)

まずホーム画面は、より視認性の高い文字の大きな「クイックメニュー」を用意。また自販機を探す際、周辺に設置してあればスマホが振動し、近づくと振動の感覚を狭くすることでその接近を知らせるアシスト機能が搭載されている。また製品選択時には、端末の音声読み上げ機能との連携が可能で、4月下旬には「お茶」や「炭酸飲料」などの音声から商品を選ぶ音声検索機能を追加する予定だとしている。そしてその後の決済は、従来と同じくキャッシュレスで行うことができる。

なお、これらの機能は全国に約48万台設置されたCoke ON対応自販機にて利用できる。「もっとみんなの自販機へ。」というメッセージのもと、視覚に障がいのある人や車椅子のため高いところに手が届かない人など、誰もが自販機を当たり前のように利用できる未来が目指されている。

Coke ON自販機のアクセシビリティ概要動画「もっとみんなの自販機へ。」篇(出所:日本コカ・コーラ)

また日本コカ・コーラは、ミライロが提供するデジタル障害者手帳「ミライロID」とCoke ONとの連携を4月8日より開始することを発表。Coke ONアプリからミライロIDの認証を行うことで、以降の購入では「Coke ON障がい者割引」が適用され、ドリンク購入時にもらえるスタンプが2倍になる。なお、この特典は通年行われ、さらに期間限定のサービスも提供されるという。

「100点を目指すのではなく、1歩ずつ改善を届けていく」

日本コカ・コーラは、社会インフラになりつつある自販機にデジタル技術などを活用することで、さらなるアクセシビリティの改善に取り組んでいくとのこと。同社の宇川氏によると、当然ながら自販機自体の改善に向けた開発も進めていくものの、「自販機自体はすでに改善が多く施されているのに加え、既存機器との入れ替えには時間がかかってしまうため、スムーズな改善につなげる意味でもCoke ONによる改善を進めていきたい」と話す。

  • 日本コカ・コーラの宇川有人氏

    日本コカ・コーラの宇川有人氏

また今後のアクセシビリティ改善に向けた開発の方針としては、 「生活環境や障がいの困りごとは、誰にとっても一様というわけではなく、万能な共通の対策は存在しない。そのため100点の策を目指していては、実装が遅れて実際の解決にはつながらない。だからこそ今後は、改善を着実に進めるため、1歩ずつ改善を届けていく方針としている」と語った。

これらの取り組みについて、ミライロの垣内俊哉代表取締役社長は、日本国内で開発されて今や世界標準となった点字ブロックを引き合いに出しながら、「アクセシビリティ改善に向けた取り組みが多くの共感を得るのは間違いない。社会のためにどのようなソリューションが必要なのか、といった方向性を世界に打ち出す取り組みになることを期待している」とした。

  • ミライロの垣内俊哉代表取締役社長

    ミライロの垣内俊哉代表取締役社長