インテルは3月25日、2024年のインテルが日本において、Intelがグローバルで注力する事業戦略「AI Everywhere」にどう取り組んでいくか、ならびに「Intel Foundry Direct Connect 2024」で発表したファウンドリ戦略に関する説明会を開催。日本での生成AIの活用を促進していくことを強調した。
微細プロセスのファウンドリでの提供に向けて着々と歩を進めるIntel
インテル代表取締役社長の鈴木国正氏は、Intelが掲げる「IDM 2.0」の実現は「自社工場の製造ネットワークの強化」、「外部ファウンドリ(製造パートナーであるTSMC)の活用」、そして「Intelのファウンドリ事業そのものの成長」の3本柱によってこそ実現されるとし、これをIntelとして推進することが、世界の半導体産業を安定化させることにつながると、その取り組みの意義を説明する。
Intelとしては「4年間で5つの技術ノードの実現(5N4Y)を目指すプロセス技術ロードマップ」を掲げてきた。2024年がその最終年であり、本格的なIntel Foundry Service(IFS)としての提供プロセスとなるIntel 18Aに続くIntel 14Aもアナウンスしたほか、UMCとのパートナーシップによる12nmプロセス、Tower Semiconductorとのパートナーシップによる65nmプロセスなど、成熟プロセスについても提供を進めていくことで、多様化する顧客ニーズへの対応も着々と進めている。すでにIntel 18Aについては、Microsoftが活用することを公表しており、鈴木氏は「このMicrosoftのIntel 18Aの採用が、大きなステップになると思っている」と、重要性を強調する。
また、ファウンドリサービスの拡充に向けて、米国のオレゴン、オハイオ、アリゾナ、ニューメキシコの4州での投資に加え、ドイツに170億ユーロの前工程工場、ポーランドに46億ドルの後工程工場、マレーシアに70億ドルの後工程工場の建設・拡張も計画しており、地政学的リスクへの対策を推進。さらに、2023年末にオレゴン拠点への高NA EUV露光装置のプロトタイプ搬入に続き、2024年3月には量産対応の高NA(NA=0.55) EUV露光装置「TWINSCAN EXE:5200」も納入されており、2025年からの量産適用準備を進めつつあるとしている。
先端半導体製造を支える日本企業に期待
鈴木氏は、IDM 2.0の実現には日本が重要な意味を持つことも強調する。半導体デバイスの製造プロセスとしては、2024年3月時点では先端ロジックプロセス工場を持たないものの、半導体製造に欠かせないシリコンウェハ、EUV向けフォトレジスト、EUV向けマスク/ペリクル、半導体用基板、3D向けパッケージング装置/技術など、世界をけん引するサプライヤが数多く本社を構えていることが大きな理由であり、鈴木氏も「具体的な話は避けるが、大きな提携をIDM 2.0のもとでできるかどうかという話をアカデミアを含めて議論している段階」と、日本の半導体関連企業に対する期待を語る。
このほか同氏は、日本の産業をけん引する自動車分野に対する期待を覗かせる。「未来の自動車は、ソフトウェアデファインド、サステナブル、スケーラブルの3つの柱に向かっていくことになる。ソフトウェアで定義されるソフトウェア・デファインド・ビークル(SDV)へと進化することで、多くの種類の部品を用意することなく、かつ機能更新も容易な自動車が実現できるようになるほか、エネルギー効率の向上に向けてパワーマネジメントの重要性が増していく。そして、自動車メーカー各社は、それぞれの車種ラインナップごとに異なる互換性のない半導体を採用するといった余裕はもはやなく、すべてのラインナップで互換性のある半導体を採用していくことが一般的になっていく」と、これからの自動車産業の方向性を説明。そうした中、Intelとしては、電気自動車(EV)の電源管理に特化したSoCを開発する仏Silicon Mobilityを買収することでパワーマネジメント領域の強化を図るほか、次世代のEV/SDV向けSoCとして「AI-enhanced SDV SoC」を掲げ、AI PCの経験を自動車の世界にも提供することを目指すとしており、すでに中国のZeekrが車両に採用することを計画しているとする。
また、PCで培ってきた電力管理規格への取り組みなどを活用する形で自動車の技術標準化団体であるSAE Internationalが推進する車両の電力管理規格「J3111」への参画や、imecと独自の自動車向けチップレットプラットフォームの提供に向けた協業も進めていくとし、「自動車産業にもAI Everywhereが浸透していく」とした。
ビジネスPCもCore Ultraの時代へ
このほか、インテルの技術本部 部長の安生健一朗氏は、同社の最新PC向けプロセッサであるCore Ultraに対応する世代のvProがアナウンスされたことに触れ、「2024年はビジネスPCの買い替えの好機」となるとした。
ビジネスシーンにおいてCore Ultra(製品型番:Core Ultra 7プロセッサ165H)は、第11世代Core(開発コード名:Tiger Lake、製品型番:Core i7-1185G7)と比べてオフィスアプリケーションで最大47%の生産性向上が図れるとするほか、Core Ultra 7 165Uと第13世代Core(製品型番:Core i7-1365U)を比べると、ビデオ会議でのプロセッサの電力消費量を最大36%削減、またはビデオ編集におけるAIパフォーマンスは最大2.2倍向上できるとする。
また、vProの新機能としては、ビジネスニーズとして根強いセキュリティ周辺の強化がポイントとしている。PCのセキュリティは今や、さまざまなレイヤでカバーすることが求められるようになっているが、IntelとしてもOSより上のレイヤに向けて、セキュリティソフトのマルウェア検出機能を支援する「インテル スレット・ディテクション・テクノロジー(TDT)」がNPUに対応することで、CPUの負荷を低減させることを可能としたほか、OSレイヤとしてのWindows 11 Proとの包括連携、そしてOSより下のハードウェアレイヤにおける「Silicon Security Engine」の採用と、さまざまななレイヤでのセキュリティ機能の向上を果たした。特にSecurity Enginesは、従来の「Intel Converged Security and Management Engine(Intel CSME)」ではマネージビリティとセキュリティの両方を担当していたものを、ファームウェア認証専用のプロセッサとして切り分けることで、よりセキュアな環境の構築を可能としたとする。
これらのセキュリティ強化によって、4年前のIntel vPro CPU搭載PCと比べて攻撃対象領域は70%削減されることになるほか、影響力のあるセキュリティ・イベントの21%減少、PC関連の重大なセキュリティ・イベントリスクの26%低減、そしてセキュリティ・チームの効率を27%向上させる効果などがあるという。
AI PCとは何か?
また同社がCore Ultraのローンチに際して宣言したAI PCだが、現在までにさまざまな定義が飛び交うこととなっており、改めてIntelとしてのこれまでも語ってきたAI PCの定義に加えて、MicrosoftともAI PCの定義を共同で策定し、PC業界に提示していくともする。
IntelのAI PCの定義は「CPU、GPUに加え、新たにNPUを搭載し、生産性、創造性、セキュリティにおいて新しいAI体験をもたらすIntel Core Ultraプロセッサ搭載PC」であるが、MicrosoftによるAI PCの要件としては、「Copilotの搭載」「Copilotキーの搭載」そして「CPU、GPUに加えて、新たにNPUをシリコン上に搭載」という3つを掲げており、2024年3月時点ではOSとしてWindows 11 23H2を搭載し、プロセッサとしてCore UltraなどのNPUを搭載したCopilotキーを物理的に備えたPCということとなる。
ここでポイントになるのはNPUの搭載だが、IntelではCPU、GPU、NPUを用途に応じて最適に振り分けることで、低消費電力かつ高い性能を実現することを目指しており、NPU以外にも注力している。例えば、Core Ultra Hシリーズの内蔵GPUであるIntel Arcならびに、プロ向けGPUであるIntel Arc ProのドライバーがAudodeskやPTC、Dassault Systems、Siemensといった3D CADベンダなどの認定プログラムをクリアしたとのことで、これによりモバイルワークステーションとして、内蔵GPUのみで3D CADなどを活用することが可能になったとしている。
なお、IntelとしてはCore Ultraが切り開いていくAI PCという分野そのものはビジネスシーンのみならず、一般ユーザーやクリエイティブシーンなどでの活用も推進しており、特にクリエイティブシーンについては、2022年3月にクリエイター支援プロジェクト「Blue Carpet Project」を始動。発足当時は賛同クリエイターは8名、賛同パートナーは39社ほどであったが、この2年のうちに賛同クリエイターは40名まで増加、賛同パートナーも73社まで増加したとのことで、クリエイターにもAIの波が押し寄せてきており、今後、その勢いは加速していくとし、「AI PC活用による新たなインスピレーションの創出」を提案するコンセプトカフェ 「AI PC Garden」を2024年3月30日ならびに31日に、東京・原宿駅近くの「café STUDIO」にて開催する予定としている。参加費は無料で、開催時間は両日とも11:30~19:00、参加クリエイターとしては、フラワーデザイナーの楠木誠悟氏や、イラストレーターのSIBATO氏、映画監督の神宮司秀将氏などの名前が挙げられている。