富山大学は3月18日、富山県内の小学生を対象に長時間(平日に3時間以上)のメディア利用について「マルチレベル分析」を行い、個人だけでなく地域(学校区)との関係に関しても調査。結果、3時間以上の長時間利用を行う児童は、生活習慣が不健康でいらいらしやすく学校に行きたくない感情が多いことなどがわかったと発表した。

同成果は、富山大 学術研究部 医学系 健康政策学講座の山田正明准教授、同・関根道和教授らの研究チームによるもの。詳細は、日本衛生学会が刊行する環境衛生と予防医学を扱う学術誌「Environmental Health and Preventive Medicine」に掲載された。

  • 今回の研究の模式図

    今回の研究の模式図(出所:富山大プレスリリースPDF)

テレビの視聴やゲームのプレイなど、子どものメディア利用が長時間に及ぶことは心身に影響を与えるものとして以前から懸念されている。そこで研究チームは今回、2018年7~9月に富山県教育委員会が実施した「とやま安心ネット・ワークショップ事業」の一環として実施された調査結果を解析することにしたという。

今回の調査では、富山県内の全小学校185校(2018年度時点)のうちの110校(59.5%)が参加し、4~6年生の小学生1万3413名を対象とした質問紙を用いたアンケートが採用された。全体の回収率は97.6%、最終分析数は1万2611名(94.0%)だった。

調査内容は、児童のメディア利用を含めた生活習慣、いらいらや登校拒否感情、家庭環境についてとなっている。その結果、平日2時間以上、メディアを利用している児童は54.2%(男子59.4%、女子48.8%)、平日3時間以上の利用は29.9%(男子34.9%、女子24.8%)であることがわかった。

次に、3時間以上メディアを利用している児童を「長時間利用者」と定義し、分析を実施。今回は個人の生活習慣などを個人レベルの変数とした通常の分析に加え、学校区レベルの変数を加えたマルチレベル分析が行われた。通常の分析では、個人レベルのみの説明変数と目的変数が用いられるが、マルチレベル分析ではその上のレベル(地域や国など)に入る個人を集団とし、その集団の持つ変数を説明変数として加えて分析される。

  • 3時間以上のメディア利用の割合と児童の生活、学校環境

    3時間以上のメディア利用の割合と児童の生活、学校環境(出所:富山大プレスリリースPDF)

学校区レベルの分析を加えた理由は、インターネットが発達した今日では個人の家庭環境だけでなく、子ども同士のつながりも長時間利用に影響があると考えられたからとする。そのため学校区ごとにメディア利用に関するルールがない家庭の割合が算出され、各学校が持つ数値として分析に加えられた。

個人の生活や家庭環境との分析の結果、長時間利用者の割合を見ると、就寝時間が遅い(10時以降39.2%、11時以降60.7%)、運動しない(45.3%)などの不健康な生活習慣の児童に多いことが判明。また、いらいらが多い(44.2%)、登校拒否感情が頻回(46.8%)といったメンタルヘルスの不良、授業の理解度が低い(45.7%)、親子で会話が無い(48.7%)、家庭でのルールがない(45.2%)ことも、長時間利者において多い結果だった。

続いて、学校区レベルの変数であるルールのない家庭の割合とメディアの長時間利用との結果が算出された。学校区でルールのない家庭の割合が20%未満(=80%以上の家庭でルールがある望ましい校区)では、長時間利用者は19.8%だったが、20%以上の校区では27.1%、30%以上の校区では32.2%、40%以上の校区では37.2%と、一番低い校区と高い校区で約2倍の差があることも明らかにされた。マルチレベル分析を用いて個人の変数を調整しても、校区での差は有意だったという。

今回の研究成果から、メディアの長時間利用者(児童)は就寝時間が遅い、運動しないなどの不健康な生活習慣が多いほか、いらいらや登校拒否感情も多く、親子での会話がない、家庭でのルールがないことがわかった。さらに校区でのルールのない家庭が多い地区では長時間利用の危険度が高い結果だった。

長時間のメディア利用の対策には、子どもが規則正しい生活習慣を持つことを基本とし、親子で会話を増やす、家庭でのルールを設けることに加え、学校区で協力してルールを持つ家庭を増やし、「子どもは地域で育てる」という意識が重要だとした。

コロナ禍の影響もあり、子どものメディア利用の平均時間が急激に増加中であり、日本小児科医会や米国小児学会では、以前から健康上のリスクを訴え2時間以内のメディア利用が推奨されている。長時間のメディア利用を防ぐため、各家庭だけでなく、地域が協力して子どもが育つ環境を作る必要があるとしている。