北海道大学(北大)と海洋研究開発機構(JAMSTEC)の両者は3月14日、光合成進化のミッシングリンクに相当する新奇性の高い細菌を発見。同細菌は酸素を発生させない光合成を行い、光のエネルギーを利用するためにユニークな光化学系を使っていることが判明したことを共同で発表した。
同成果は、北大 低温科学研究所のジャクソン・ツジ研究員(現・JAMSTEC所属)、同・渡邉友浩助教、同・福井学教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」に掲載された。
光合成は、光を利用して二酸化炭素から有機物を合成する生物学的プロセス。現代の植物や藻類は光エネルギーを集めるアンテナ複合体と、光エネルギーを化学エネルギーに変換する光化学系(「I」と「II」の2種類がある)を使って光合成を行う。
現在の光合成では副産物として酸素が生じるが、どちらの光化学系も、元々は酸素を生じない光合成(酸素非発生型光合成)を行う太古の細菌の光化学系から進化してきたと考えられている。現存する酸素非発生型光合成細菌は、現在の植物や藻類とは異なりどちらか1つの光化学系による光合成を行うことから、太古の光合成細菌も同様に1種類を使っていたと考えられているが、光合成装置の種類やその進化についてはまだ不明な部分も多いのが現状だ。
これまでの研究から、光合成細菌のグループは少なくとも8つ現存していることが確認されていたが、その多くが使っている光化学系やアンテナ複合体の組み合わせは、単純な進化仮説で説明するのが難しいという。たとえば、「クロロフレキサス門」の細菌は光化学系IIとアンテナ複合体「クロロソーム」を使って光合成をするが、同複合体を使うほかの細菌はすべて光化学系Iを使っている。そのため、同複合体の起源はこれまで未知だったとする。こうした問題も含めて、地球の光合成の初期進化を解明するためには、新たな手がかりが必要な状況だった。
そうした中で研究チームがカナダ北部の湖から発見して培養し、「Candidatus Chlorohelix allophototropha」(以下、「CCa」と省略)と命名した細菌は、重要な鍵を握る可能性があるという。そこで今回の研究では、その詳細な研究を行うことにしたとする。
研究開始当初、光合成ができる珍しい細菌の培養を目指して、採水した湖水に光が照射されて培養が行われた。しかし、数週間経っても明確な結果が得られなかったが、実験終了寸前に、微生物増殖が示された1本の培養ビンが注目された。その後の研究によって、その培養瓶中に含まれている主要な光合成細菌の分離培養に成功。それがCCaである。
CCaはクロロフレキサス門に属しており、ほかの同門の光合成細菌と同様に、クロロソームなどの光合成に必要な装置を持っていることがわかったとのこと。しかし、同門の既知の全光合成細菌は光化学系IIを使っているのに対して、CCaは光化学系Iを使っていることが判明。このことは、今までに知られていなかった系統群を代表するものということになり、つまり、CCaは既知の全光合成生物と一線を画する存在といえるとした。CCaは、生命の進化系統樹において既知の光合成グループの中間に位置する「光合成進化におけるミッシングリンク」であり、太古の地球における光合成進化過程のパズルを解くピースとなるものだという。
そこで次に浮かんだ疑問が、両方の光化学系を含むことが判明したクロロフレキサス門において、いかにしてクロロソームが獲得されたのかという点だったとする。さらなる詳細なゲノム解析が行われ、CCaが光合成進化において同門の細菌は、光化学系の反応中心を柔軟に変化させながら進化しつつ、クロロソームのような集光装置をそのまま維持して進化したことが考えられるとした。
今回の新発見によって、クロロフレキサス門における光合成進化仮説の矛盾が解消されたことから、研究チームはその進化を説明する2つのモデルを新たに提案することにしたという。今回のCCaの発見に対し、地球上での光合成の進化についての考え方を大きく変えるものとして期待しているとした。
なお、ある意味で、この新種の酸素非発生型光合成細菌を生きた化石と捉えることができるとする。そして、特筆すべき点として、CCaが地球における光合成のからくりや進化の謎を解く鍵となる生物であり、分離培養ができたことで生体分子の生化学的アプローチが可能となるため、酸素非発生型から酸素発生型光合成への進化過程、さらには太古地球の環境と生命の共進化について包括的に理解できることが期待されるとしている。