国立天文台(NAOJ)は3月14日、市民天文学「GALAXY CRUISE」の分類データを活用し、深層学習アルゴリズムを用いて銀河形態の大規模分類を行った結果、すばる望遠鏡が7年かけて構築した画像データベースから、40万天体に及ぶ渦巻銀河に加え、希少な「リング銀河」を3万天体以上も検出することに成功したと発表した。
同成果は、早稲田大学の嶋川里澄准教授を中心に、NAOJ、東京大学の研究者らも参加した共同研究チームによるもの。詳細は、日本天文学会が刊行する欧文学術誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」に掲載された。
銀河の姿形や性質はそれぞれ異なっており、その違いも大小さまざま。我々のいる天の川銀河の他にも多くの銀河があることが発見されて以降、こうした銀河の多様性の成り立ち、銀河同士の合体や銀河中心の超大質量ブラックホールの活動との因果関係を解明すべく、研究が続けられている。近年はAIの発展に伴い、かつてない大規模な銀河分類の効率化が実現できる時代に突入し、銀河の大規模分類と多様性の起源の追求は、データ天文学の黎明期を象徴する一大テーマとして躍進が期待されているという。
しかし、いくら発展してきたとはいえ、AIも教師データを用意して学習させなければ、その強力な性能も発揮できない。その教師データを作れるのは人であり、天文学においては人の目は依然として強力なツールなのである。その代表例が、すばる望遠鏡が捉えた高精細な銀河の大規模画像データを利用した、市民天文学プログラム「GALAXY CRUISE(ギャラクシークルーズ)」。同プログラムは、すばる望遠鏡がこれまでに撮影してきた多数の銀河の画像分類を、1万人を超える市民天文学者が行っているもの(現在は第2シーズンを実施中で、市民天文学者を募集中)で、高精度な銀河の形態分類が実現された。中でも、銀河衝突・合体など、特殊な条件下で形成されるリング構造のような形態もあるため、こうした珍しい兆候の正確な分類には市民天文学者の見極める目が不可欠だったという。
今回の研究では、GALAXY CRUISEで集められた約2万天体分の分類データをAIの教師データとして使用して学習させることで、銀河の渦巻き構造とリング構造を検出するAIプログラムが構築された。これを、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam」(HSC)を用いた大規模探査「HSC-SSP」の約7年分のデータ(第3期データリリース)に適用することで、およそ70万天体に及ぶ銀河の大規模分類が実現。その中から、約40万天体の渦巻銀河と3万天体超のリング銀河を検出することに成功したとする。
特に、銀河全体の5%にも満たないリング銀河の大量検出ができたことは、情報の少ないリング構造の成り立ちや性質を統計的に明らかにする上で重要だという。今回は、リング銀河が、天の川銀河のような成熟した星形成銀河(主に渦巻銀河)と、星形成活動を終えて衰退する銀河(渦巻のない銀河)との中間的な性質を持つ傾向にあることが発見された。これはスーパーコンピュータを用いた最新の理論予測とも合致するものであり、銀河のリング構造の理解に向けて一歩前進したといえるとする。また今回の成果は、科学コミュニティにおける市民参加の意義を再認識するものであり、市民天文学者とすばる望遠鏡が協力して切り拓く、未来の天文学研究に向けた新たな一歩となるだろうとしている。
今回の研究を率いた早大の嶋川准教授は、「AIを使った分類は70万天体でも1時間にも満たないのですが、GALAXY CRUISEが2年以上かけて集めた分類データがなければ今回の研究は実現しておらず、当プロジェクトに参加された市民天文学者の皆様には感謝の念に堪えません。これから市民天文学者との協働研究が、国内でさらに盛り上がってくれば非常に面白いと思います」とコメントしている。