東北大学は3月13日、同・大学大学院 理学研究科地震・噴火予知研究観測センター(AOB)の趙大鵬教授が開発した最新の地震波トモグラフィー法を用いて、フィリピン海の海底下約1600kmまでの3次元地震波速度異方性構造を解明。これにより、マントルの中部と下部に現在のプレート沈み込みと無関係の異方性構造を発見し、約5000万年前の太平洋下部マントルフローの残り物であることが判明したと発表した。
同成果は、AOBの趙教授に加え、中国科学院海洋研究所のJiankeFan教授、同・CuilinLi准教授、同・DongdongDong教授、同・LijunLiu教授(AOB兼任)らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の地球科学に関する全般を扱う学術誌「NatureGeoscience」に掲載された。
地球の内部に潜れるような技術はまだないため、直接の観察などは不可能だが、地震波トモグラフィー法と呼ばれる、大量の地震波の伝播時間を用いることで、地球内部の3次元的な地震波の速度やその異方性の分布を求めることができる。
それによると、地震波速度の異方性は地殻(深さ0~35km)と上部マントル(深さ35~660km)に普遍的に存在するが、下部マントル(深さ660~2889km)には限られた場所にしか存在せず、沈み込み帯から離れた地域下のマントル中部と下部に地震波異方性があるかどうかはまだわかっていないという。
それらを調べるのに良い場所の1つが、日本近海だとフィリピン海プレートだとする。同プレートは、その周囲は沈み込み帯に囲まれているが、その中心部が沈み込み帯から遠く離れていることが、上述した不明な点を調べるのに適しているとのことで、研究チームは今回、同プレートを調査対象とし、趙教授が開発した最新の地震波トモグラフィー法を用いて、1235個の地震観測点で記録された5万345個の地震からの100万個以上のP波到達時刻データを収集して調査することにしたという。
その結果、フィリピン海およびその周辺域下の深さ1600kmまでのマントル3次元P波速度構造と方位異方性構造が明らかにされた。(P波とは、地震で発生する波には2種類あり、P波とは速度の速い縦波のことで、それよりも遅く伝わるS波は横波となる。)
また、これまで行われた多くの地震学、地球化学、高温高圧実験岩石物理学、プレート運動歴史の再現およびマントル対流シミュレーションなどの研究成果を総合的に考慮し、今回の研究で求められた3次元P波異方性トモグラフィーの解釈が行われた結果、以下のような新たな知見を得たとする。
1つ目は、フィリピン海プレート中心部下のマントル中部(深さ700~900km)には、P波方位異方性の速い方向が南北だったということ。この南北方向のP波異方性は、現在沈み込んでいるプレートとは関係なく、約5000万年前の太平洋下部マントルフローの残り物によるものだという。
2つ目は、今回の研究対象領域下の深さ700~1600kmのマントル中部に、2つの「P波高速度異常体」という物体「H1」と「H2]が検出されたということ。H1は伊豆-小笠原海溝の下、H2はフィリピン海プレート中心部の下にあることがわかっている。これらは、現在沈み込んでいる「太平洋プレート」(太平洋の大部分を形成する海洋プレート)の前に沈み込んでいた「イザナギプレート」の残骸とする。なおイザナギプレートとは、白亜紀前期(1億4500万年~1億年前)にアジア大陸(ユーラシア大陸の東側)東縁で南から北へ、年間約20cmの高速度で沈み込んでいたプレートで、すでにアジア大陸の下に完全に沈み込んでしまっており、現在は地表には存在していないという。
そして知見の3つ目は、イザナギプレートの残骸にあるP波方位異方性の速い方向が北西-南東であるということ。これは、約4000万年前の太平洋下部マントルフローが反映されているとした。
マントルの中部と下部にある地震波異方性は、これまで考えられたよりも多く存在する可能性が高いという。その中には、現在沈み込んでいるプレートと無関係の古いマントル対流を反映するものも含まれているとする。
今後、このような研究を世界のほかの地域に展開すれば、地球内部の構造・進化とダイナミクスおよび地震・噴火の根本原因に関する理解が、大幅に進展することが期待されるとしている。