三菱電機は3月11日、同社の鎌倉製作所にて、先進レーダー衛星「だいち4号」(ALOS-4)を報道陣に公開した。同衛星は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が現在軌道上で運用している「だいち2号」(ALOS-2)の後継機。分解能を維持したまま、観測幅や観測頻度が大幅に向上しており、災害対応などでの活用が期待される。

  • 公開された先進レーダー衛星「だいち4号」(ALOS-4)のフライトモデル

    公開された先進レーダー衛星「だいち4号」(ALOS-4)のフライトモデル

衛星の重量は約3トン。軌道上で各部を展開すると、10.0m×20.0m×6.4mという大きさになる。三菱電機は、プライムメーカーとして、衛星開発を担当。2016年度より開発を始め、設計・製造・試験が完了した。開発費は320億円(打ち上げ費用は含まず)。2024年度に、H3ロケットで打ち上げられる予定だ。

だいち4号が担う4つのミッション

JAXAの「だいち」(ALOS)シリーズは、2006年に初号機が運用を開始。2011年に発生した東日本大震災では、400シーンの撮影を実施、10府省・機関へ情報を提供し、政府の情報集約に貢献した。

  • だいち4号について説明するJAXAの有川善久プロジェクトマネージャ

    だいち4号について説明するJAXAの有川善久プロジェクトマネージャ

地球観測には、大きく光学とレーダーの2種類の方法がある。このうち、光学は普通の写真と同様なので分かりやすいだろう。一方、レーダーは電波を使う。アンテナから電波を出し、地表で反射して戻ってきたものを受信。光学と違ってモノクロ画像になるものの、夜間や悪天候時でも観測できるというメリットがある。

  • レーダー観測の概要

    レーダー観測の概要 (C)JAXA

だいちシリーズのレーダー観測の大きな特徴は、Lバンドと呼ばれる帯域を使うことだ。Xバンド(約3cm)やCバンド(約6cm)よりも波長が長く(約24cm)、分解能の面ではやや不利なものの、木の枝葉などを通過できるため、日本のように植生が多い地域でも、地面の形状を正確に把握しやすい。

初号機は光学もレーダーも搭載する衛星だったが、このレーダー観測を引き継いだのが2014年に打ち上げられた「だいち2号」(ALOS-2)である。同機は、打ち上げからすでに10年。まだ稼働しているとはいえ、設計寿命の5年を遙かに超えて運用しており、故障による観測中断を防ぐためにも、後継機が求められていた。

  • だいち4号と2号の比較

    だいち4号と2号の比較 (C)三菱電機

だいち4号は、2号のミッションを引き継ぐために、同じ高度(628km)の太陽同期軌道から観測を行う。分解能は、2号と同じ3m。しかし、強化されたのは観測幅で、これは50kmから200kmへと、4倍に広がった。この200kmという観測幅だと、たとえば伊豆から銚子までの広範囲が一度に観測可能になる。

  • 50km幅だと東京湾周辺のみだが、200kmだとここまで広がる

    50km幅だと東京湾周辺のみだが、200kmだとここまで広がる (C)JAXA、三菱電機

だいち4号に与えられたミッションは、以下の4つ。

  1. 地殻・地盤変動の監視
  2. 災害状況の把握
  3. 海洋状況の把握
  4. 地球規模課題への対応
  • だいち4号のミッション

    だいち4号のミッション (C)JAXA

上記(1)では、「干渉SAR」と呼ばれる技術を使う。これは、同じ場所を別の時間に2回観測し、その2つのデータを処理することで、地表の変動をcmオーダーで検出できるというもの。今年1月に発生した能登半島地震では、だいち2号による緊急観測を実施。最大で4mもの隆起が確認され、これは現地調査の結果とも整合した。

  • 能登半島地震での観測結果

    能登半島地震での観測結果 (C)JAXA

だいちは2号も4号も、回帰日数は14日、つまり、14日後には同じ場所に戻ってくる。2号は観測幅が狭いため、4回に分けて観測しなければならなかったが、4号はそれを1回で観測できる。これにより、年間の観測回数は、4回から20回へと、5倍に増えるという(4倍でないのは、実際の運用ではマージンも含まれるためだ)。

この観測頻度の向上により、火山や地盤沈下などの異変を、早期に発見することが可能となる。また、短期的な変動も、高精度に検出できるようになる

  • 観測幅が広くなり、観測頻度も向上

    観測幅が広くなり、観測頻度も向上 (C)JAXA

上記(2)は、レーダーの全天候型観測が役立つ。災害はいつ起きるか分からず、光学で観測できる昼間や晴れた日とも限らない。2020年7月に熊本県を中心に発生した集中豪雨では、河川の氾濫の様子を見るために、だいち2号で深夜の観測も行った。

  • レーダーなら、真夜中でも観測可能

    レーダーなら、真夜中でも観測可能 (C)JAXA

上記(3)のためには、衛星AIS(船舶自動識別装置)受信機「SPAISE3」を搭載する。これはJAXAが開発した実験装置で、従来よりも性能が向上。船舶が混雑する海域でも、個々の識別が可能になったという。

  • SPAISE3は航行の安全確保に貢献できるという

    SPAISE3は航行の安全確保に貢献できるという (C)JAXA

上記(4)では、森林資源や食料資源の把握を行う。だいち2号では、全球の森林マップを作成。森林保全など、地球温暖化対策に貢献した。また機械学習を活用した水稲監視パッケージも開発。東南アジアを中心に、実証活動が続けられている。

  • 各種国際機関と連携し、地球規模課題に対応する

    各種国際機関と連携し、地球規模課題に対応する (C)JAXA