出張・経費管理システムを手掛けるコンカーは3月12日、インボイス制度開始後において、日本企業全体で経費精算業務に費やす時間が年間で約5億3972万時間増えるとする試算結果を発表した。人件費に換算すると年間で約1兆4045億円に相当するという。

申請者と承認者それぞれのインボイス制度の要件を満たすかの確認にかかる時間を割り出し、日本の労働人口や平均の人件費などをもとにして計算した。例えば、申請者が行う「領収書がインボイス制度を満たすかの確認」は必ず発生する作業で、1回あたり30秒かかると仮定。差戻し率(11.5%)や年間1人あたりの申請明細数(120明細)といった数字はコンカーのベンチマークを引用して計算した。

  • インボイス制度の経費精算への影響 コンカー試算

    インボイス制度の経費精算への影響 コンカー試算

同日の記者発表会に登壇したコンカー 執行役員社長の橋本祥生氏は「インボイス制度により経費精算業務の運用効率化が後退する恐れがある。インボイス制度の要件緩和を進め、2020年時点で実現できていた運用効率化に原状復帰する必要がある」と提言した。

  • コンカー 執行役員社長 橋本祥生氏(12日、オンライン)

    コンカー 執行役員社長 橋本祥生氏(12日、オンライン)

キャッシュレス決済でも紙の領収書が必要な理由

インボイス制度により、企業の経費精算において、事業者登録番号、適用税率ごとの税額が記された「適格な」領収書(インボイス)の受領が義務付けられた。そのため、担当者の「事業者登録番号が領収書に記載されているかの確認」や、「事業者登録番号が正しいかどうかの確認」といった業務が増えた。

またインボイス制度開始前は、コーポレートカードなどのキャッシュレス決済時(明細データが経費精算システムに連携される場合)は、領収書の受取は不要だった。しかし制度開始後は、タクシーアプリなどを除く一般的なサービスでは明細データに同制度に必要な情報が含まれないため、キャッシュレス決済時であってもインボイス、つまり紙の領収書の受取が原則必要になった。

  • インボイス制度対応に伴う経費精算業務の変化

    インボイス制度対応に伴う経費精算業務の変化

コンカーが経費担当者1000人を対象に実施した調査結果によると、経費管理者の85.4%と経費申請者の69.4%が、キャッシュレス決済の利用によって軽減された経費精算業務の負荷が、インボイス制度開始後に再び増加したと感じていることが分かった。

  • インボイス制度の経費精算への影響 出典:コンカー

    インボイス制度の経費精算への影響 出典:コンカー

ではなぜキャッシュレス決済の場合にもインボイスの受取が必要になったか。それは、法人カード連携において環境が整っていないからだ。店舗でのPOSレジや決済端末、そしてカード会社や経費精算システム間の情報はすべて連携されておらず、結果として明細データにインボイス制度に必要な情報が含まれなくなっているのが現状だ。

全国で約759万加盟店の決済端末、決済ネットワーク、カード会社、国際カードブランドなどの改修が必要で、対応するには莫大な時間とコストがかかるため、対応は現実的ではないとコンカーは指摘する。

  • 法人カード連携において現状は環境が整っていない

    法人カード連携において現状は環境が整っていない

コンカー橋本社長「キャッシュレス決済時のインボイスを不要に」

一方で、インボイス制度には出張旅費等特例がある。これにより、従業員に支給する出張旅費や宿泊費、公共交通機関を使用した交通費といった特例対象の経費は、インボイスが未受領であっても、仕入税額控除(事業者が消費者から受け取った消費税から仕入れで負担した消費税を差し引いて納税する仕組み)の対象にすることが可能だ。

  • インボイス制度の出張旅費等特例

    インボイス制度の出張旅費等特例

ただし、会社決済型カードは出張旅費等特例の対象外だ。こうした状況を踏まえ、橋本氏は「出張旅費等特例をすべての立替経費に拡大し、キャッシュレス決済時にはインボイスを不要にする必要がある。付加価値を産まない業務を削減することは、日本として早急に取り組むべき重要な課題だ」と述べた。

加えて、「この提言はインボイス制度そのものを否定するものではない。2020年時点で実現できていた運用効率化に原状復帰を目指すものだ」とし、インボイス制度の要件緩和の実現に向けて関係各所との対話を進めていく姿勢を明らかにした。