髪の毛の主成分のケラチンを極小の球体ゲルにして皮膚に塗ると、発毛や育毛の効果があることを、筑波大学の研究チームが実証した。毛の生える速さが増すことがマウスで確認できた。中高年男性向けの発毛・育毛剤は市場に出回っているが、人体の成分を使用するため、副作用が少なく、薬を使用しにくい産後の女性の抜け毛などにも活用できると見込んでいる。今後、化粧品として製品化し、ヘアサロンや床屋での販売を目指す。

髪の毛や爪、皮膚を構成するケラチンはタンパク質の一種で、何万~何十万という分子量で鎖状につながっている。筑波大学数理物質系の山本洋平教授(材料化学・高分子化学)は、元々様々な物質を極めて小さなサイズで球体化する実験を重ねてきた。中高年向けの発毛・育毛剤である「ミノキシジル」に効果があることは知っていたため、当初は球体にしたケラチンの中にミノキシジルを入れたポリマーを作って、毛根に直接高濃度に作用するよう薬剤を運ぶ、いわゆる「キャリア」のような形で使えないかと考えていた。

山本教授は、羊毛由来の水溶性酸化ケラチンを、スプレーを使いミスト状にして酢酸エチルの中に吹き付けた。すると、脱水してケラチンがマイクロ(1マイクロは100万分の1)サイズで糸まりのように固まる。この糸まり状のケラチンを水に溶かした「ケラチンマイクロ球体ゲル」を、共同研究した筑波大生命環境系の礒田博子教授に渡したところ、ミノキシジルは入れずに試しにそのまま塗ってみてはどうかと想定外の提案をされた。

その言葉を受け止めた山本教授は、できあがったケラチンマイクロ球体ゲルを、毛を剃ったマウスの背中に塗って、毛が生える速さをミノキシジルと比較実験した。マウスの毛は剃っても20日後には再び生える個体を使った。人毛由来の水溶性酸化ケラチンは高価なことと、今後商品化するときに嫌悪感をもたれる可能性があるため、使わなかった。

ミノキシジルを塗ったマウスは塗ってから1~2日で生え始め、ケラチンマイクロ球体ゲルは2日目から生え始めた。水のみを塗ったマウスでは7日ほどかかった。

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    (a)電子顕微鏡で観察したケラチンマイクロ球体と、(b)光学顕微鏡での写真。(c)は(b)をケラチンマイクロ球体ゲルにしたもの(筑波大学提供)

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    今回比較対象にしたマウス。上から水、ミノキシジル、今回のケラチンマイクロ球体ゲルを塗った。水と比べると下の2つは早く毛が生えた。10日目で違いが出ていることが分かる(筑波大学提供)

毛は成長、退行、休止という3つのサイクルを繰り返して生え替わっている。今回の実験の観察で、ケラチンマイクロ球体ゲルがそのまま毛になったわけではないので、マイクロ球体ゲルにすることで高濃度のまま毛根に入り込み、毛の成長周期を早めることができたのではないかと山本教授は考えている。詳しいメカニズムはこれから検証する。

ケラチンは元から人間の体に存在するため、ミノキシジルによる全身の様々な副作用が避けられるという利点がある。また、市場ではあまり出回っていない女性用発毛・育毛剤、とりわけ出産後の抜け毛に対して、授乳中でも塗ることができる安全な発毛・育毛剤としての製品化を目指している。今後は山本教授らが経営する大学発ベンチャーを通じ、成長周期を早めるメカニズムを解明すると共に、化粧品としての許可を受けて、ヘアサロンや床屋で販売したいという。

成果は米化学会の「ACS アプライド バイオ マテリアルズ」電子版に2月14日に掲載され、筑波大学が同16日に発表した。

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