文部科学省(文科省)傘下の科学技術振興機構(JST)は3月8日、東京都千代田区のJST本館にて「Researcher+シンポジウム2024」を開催し、同事業で設けた若手研究者育成事業拠点である広島大学による「HIRAKU-Global」など、5育成事業拠点での若手研究者育成の仕組み・制度などを、各拠点の拠点長(プログラム・マネージャー)が報告した。

また、その5育成事業拠点で育成支援を受けている博士課程の学生・博士課程修了者の若手研究者支援対象者(「フェロー」と呼ぶ)も登壇、各拠点での具体的な支援内容や必要と考える支援内容などを語るパネル討論も実施された。

  • Researcher+シンポジウム2024

「Researcher+」事業は、文科省の「世界で活躍できる若手研究者戦略育成事業」を基に、JSTがその育成事業として実施したプログラムだ。令和元年度(2019年度)から令和5年度(2023年度)までの5年度間にわたって実施中だ。2019年度に、広島大学HIRAKU-Global(地方協奏による世界トップクラスの研究者育成)と京都大学「L-INSIGHT」(世界視力を備えた次世代トップ研究者育成プログラム)が、2020年度に東北大学「TI-FRIS」(学際融合グローバル研究者育成東北イニシアティブ)が、2021年度に筑波大学「TRiSTAR」(大学×国研×企業連携によるトップランナー育成プログラム)と名古屋大学「T-GEx」(世界的課題を解決する知の『開拓者』育成事業)の2拠点が採択され、現在はこの5拠点が活動中だ。

  • 「世界で活躍できる研究者戦略育成事業」の実施機関

    「世界で活躍できる研究者戦略育成事業」の実施機関となっている5大学 (JSTの資料から引用)

この5拠点は当該の大学だけではなく、例えば広島大学HIRAKU-Globalは山口大学と徳島大学、愛媛大学の3大学と共同で事業を実施するなど、広がりを持っている。また、東北大学も弘前大学や秋田大学などの6大学と共同で事業を実施し、筑波大学は茨城大学などの大学に加えて、産業技術総合研究所などの国立研究機関などと共同で実施して広がりを持たせている。

この5拠点は、「Researcher+」事業のプログラム・ディレクター(PD)を務める安浦寛人 九州大学名誉教授(図3)などの開発普及委員会が各提案内容を審査し採択した(その後は、開発普及委員会は同拠点の進捗管理と評価を担当している)。また、この「世界で活躍できる研究者育成プログラム総合支援事業」は、JSTの山口陽子シニアフェローなどの事務局スタッフが運営し、関連する各プログラムなどの普及などを手がけている。

  • 安浦寛人九州大学名誉教授

    「Researcher+」事業のプログラム・ディレクター(PD)を務める安浦 寛人九州大学名誉教授

「Researcher+シンポジウム2024」の議長などを務めた安浦PDは、冒頭に「この事業を始めた経緯として、最近は日本の各大学院での博士後期課程進学者数の減少や博士号をとった若手研究者に対して、大学・大学院や国立研究機関でのポジションの減少がいくらか進み、若手研究者の基本的な育成システムの不足が課題として浮上している」との日本での実態を解説した。

最近、日本の各大学院での博士後期課程進学者が減少している。さらに1980年ごろまでのように指導教官が修士の学生に博士課程に進むように伝えることは、事実上のアカデミック・ハラスメントと解釈されるようになり、博士後期課程進学者がさらに減る傾向をみせ始めている。また、博士号を取得した後に、企業などに就職する際には、その時点での就職環境の見通しが読めない可能性もあり、修士での就職の方が“確実”という神話が広がっている模様だ。

筆者注:日本の大学・大学院や国立研究機関などの教員(助教、准教授、教授など)や研究開発者(主に博士号を持つ研究者)が発表する学術論文の量・質が下がっているという“噂”が広まっていることを受けて、JSTは3月11日にJST東京別館にて緊急シンポジウム「~激論 なぜ、我が国の論文の注目度は下がりつつあるのか、我々は何をすべきか?~」を開催している。

安浦PDは「以前は研究室を主催する教授などが“徒弟制度”によって研究手法を教え、一人前の研究者に育てる仕組みだったが、現在は組織的に研究手法を教え、世界で活躍する人材を育成しつつある。外国の大学院や研究機関での人材育成も進めている」と解説する。しかし、それでも博士後期課程進学者の減少は歯止めがかからないとの見通しもあり、「ここで博士後期課程進学者を増やす、活躍の場をつくる工夫が不可欠と考えている」と現状を総括した。

なお、Researcher+事業で設けた5拠点以外の大学院生・若手研究者に対して、JSTは「研究者のための+αシリーズ」という研究者スキル育成のワークショップやセミナーを実施し、国際イベント支援などの活動支援プログラムも実施中だ。安浦PDは、「若手研究者は、国(日本)の将来のための貴重な人的資源である」ということを主張し、「各学問分野で世界の(研究開発の)潮流をつくる若手研究者を増やす仕組みの重要性」などを力説した。