EYは3月11日、気候変動のリスクに関する最新のレポート「EYグローバル気候変動リスクバロメーター(2023年度版)」を発表した。今年で5回目を迎える同調査では、企業の気候戦略と企業戦略の間には深刻な分離があることを示唆しているという。
74%の企業が気候リスクの定量的インパクトを財務諸表に反映していない
調査では、企業は温室効果ガス削減目標遵守を公約する気候コミットメントに合意しているにもかかわらず、調査対象の企業のほぼ半数(47%)が公約達成の意思を証明するネットゼロ移行計画を開示していないとのこと。
これを裏付けるように、74%の企業が気候リスクの定量的インパクト(業績に与える影響)を財務諸表に反映しておらず、気候変動が他の重大なインパクトと同程度には重視されていないことを示唆しており「気候戦略は依然として企業報告から分離されている」という大局的な傾向を示していると指摘。
気候関連の情報開示は、カバー率も質も向上(ともに前年同期比で6%の向上)するなど、特に発展途上国で改善されているが、人類が後戻りできない段階に達している現在、この深刻な状況を打破するには、もはや情報の開示だけでは十分ではなく、大々的に多くの企業が集ってトランスフォーメーションを実行する必要があるという。
調査は、気候関連の情報開示についてカバー率と質の向上をスコアリングする、定評あるベンチマーク。気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の基準に基づいて、51カ国1500以上の企業における業績関連の情報開示を検証している。
気候変動リスクバロメーターは、各企業がTCFDが推奨する情報開示のうち、いくつ開示しているかその数(カバー率)と、各開示情報の範囲および詳細(質)を計測。
調査によるとカバー率は引き続き前進を続けており、2022年の84%から2023年は90%へ向上したが、気候関連の開示情報の質は50%と低く、わずかながらも向上(前年同期比6%増)した唯一の理由は、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が新たに導入するサステナビリティ情報開示基準で要求事項が増えるため、それに備える必要があるというものだった。
また、本調査によって気候関連の開示情報の粒度が依然として均一化されておらず、情報開示をめぐる規制の効果に格差があることも明らかになった。気候関連情報開示の質で上位を占める国は、英国(66%)、ドイツ(62%)、フランス(59%)、スペイン(59%)、米国(52%)となっている。しかし、インド(36%)、中国(30%)、フィリピン(30%)、インドネシア(22%)は、大きな改善が必要な国として挙げられている。
気候関連情報開示の動向を決定づける3つの新しい領域
今年の調査ではより深い分析を行うため、今後数年間の気候関連情報開示の動向を決定づけるであろう3つの新しい領域を測定した。
企業業績への反映
1つ目は、企業の財務諸表に気候関連のリスクとオポチュニティがどの程度反映されているか、そのレベルの測定。これは、気候変動のリスクとオポチュニティに対する企業の理解度を示すだけでなく、企業がその理解を開示することにどれほど意欲的かを伝えるものとなる。
調査対象企業の3分の1のみが気候関連インパクトの業績に対する定量的・定性的な関連性を、財務報告書で公表している。これは、財務報告の中で、気候関連のリスクとインパクトが、企業業績の他の指標とは同等に考えられていないことを示唆しているとのこと。
さらに、調査対象の企業の42%が自社のバリューチェーンおよび広い視野で見た市場動向に照らしたシナリオ分析を行っていない。また、気候変動がビジネス成長の文脈で考えられていないことを象徴するように、大半の企業は気候関連リスクの戦略(77%)と比較して、気候関連オポチュニティの戦略(68%)を開示することに引き続き消極的となっている。
ネットゼロ移行計画の策定
2つ目は、企業が公約からアクションへと前進しているか否か、またどのようにアクションに移しているのかを評価する、企業のネットゼロ移行計画の測定。この領域はまだまだ伸びしろがあり、調査対象企業のほぼ半数(47%)が、気候変動に関する最新の推奨事項に合わせて自社のビジネスモデルとオペレーションをどう方向転換していく計画なのかを情報開示していない。
移行計画を情報開示している企業(53%)でも、情報の詳細さの度合いは依然として限定的であり、当然ながらエネルギー(60%)、鉱業(60%)、運輸(58%)、テレコム&テクノロジー(57%)など、最大の気候リスクにさらされているセクターは最も詳細な移行計画を整えている。しかし、農業セクターは後れを取っており、なんらかの移行計画を開示していると回答したのは、調査対象の農業セクター企業のわずか43%のみだった。
新基準遵守への準備度
そして3つ目は、さらなるインサイトに対する企業の準備度の計測、つまりISSBが示している基準草案(S2号)に対して準備ができているか、またはそれを採用するかどうかの計測となる。
気候リスクとビジネス成長戦略とのつながりを理解している企業は、国際財務報告基準(IFRS)S2号「気候関連開示」などの、新たな気候情報開示要件への準備度が高くなっている。一方で、ただコンプライアンスするだけというアプローチを取っている企業は、新たな気候関連情報の開示義務を遂行しようとする際に苦心する可能性が高いと指摘している。
実行を検討すべきアクション
調査では、気候変動に対する世界レベルの行動計画を後押しするために、企業が実行を検討すべき3つの重要なアクションとして「負担からアクションへの思考の転換」「データに基づく脱炭素化」「取締役会での重要性の向上」を例示している。
負担からアクションへの思考の転換
業績を上げる企業は情報開示を態度とアクションを推進するために活用しており、気候リスクをめぐるコンプライアンスを実行可能なオポチュニティと捉えている。こうした企業は、詳細で厳密なデータの開示とともに、当該データに基づいて戦略の策定からアクションまで一貫して行っている。
データに基づく脱炭素化
データをサイロ化するのではなく、リスク管理とつなげて統合し、CO2削減の加速に役立てられるべきだという。
取締役会での重要性の向上
気候データは取締役会レベルで活用され、企業戦略に影響を与えるものではなくてはならず、経営陣は気候インパクトについて組織全体に対して一貫したアプローチを取るべきだと提言している。