日本科学未来館では3月2日から10日まで、リコーが主催するイベント展示「海洋プラスチック問題を考えよう! ~わたしたちができることって?~」が開催されている。
同館1Fにて無料で公開されているこの展示は、近年問題視されている海洋汚染の主要因である海洋プラスチックに焦点を当て、地球規模で進行している課題を“自分ごと”にすることを目指したもの。海洋プラスチック問題の現状を伝え、そして未来のために道しるべを示すこのイベントをリコーが開催した背景には、1人の女の子が送った1通の手紙があったという。
海洋プラスチック問題を考える5つの展示ゾーン
今回の展示は、10問のクイズから海洋プラスチックについて考える「エピソードゾーン」、リコーの360度カメラ「THETA」で撮影した海中ダイビング映像を通して、沖縄の海の現状を知る「海中360°体験ゾーン」、プラスチックごみの排出を減らすためにできる取り組みを紹介する「みんなができることゾーン」と「わたしたちができることゾーン」、そして美しい海へとそれぞれのイラストを泳がせることができる「キレイな海に魚を増やそう!ゾーン」の5つで構成されている。
海洋プラスチック問題についてじっくりと考える機会にするため、展示内容にも工夫が凝らされているとのこと。主なターゲットは子どもたちではあるものの、大人でも改めて問われるとわからないことや、知らなかったプラスチックごみの悪影響を目の当たりにする、貴重な機会になるだろう。
リサイクルのために不可欠な樹脂判別センサーも体験
こうした再生プラスチックの利用例は徐々に増加しているが、さらなるリサイクルの推進には、プラスチックごみの分別をより正確に行える必要がある。今回のイベントでは、廃プラスチックの素材を即座に判別できるリコーの樹脂判別ハンディセンサーも展示されている。
同社の光学技術を活用して開発された樹脂判別ハンディセンサーは、プラスチックにかざしてボタンを1度押すだけで、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)など13種類のプラスチック素材を判別するというもの。判定結果はスマートフォンのアプリで表示可能で、手軽なサイズという特徴から多くの活用事例があるとする。
展示内では、さまざまな種類のプラスチック製品にセンサーを実際にかざし、素材判別を体験することも可能だ。来場者からも興味が集まっているとのことで、ごみの処理に関わる用途はもちろん、研究開発用途、さらには小中学生への環境教育における活用もアイデアとして挙がったという。
リコーが海洋ごみ問題に取り組む契機は少女からの手紙
海洋プラスチックが与える海への影響について考える今回の展示。リコーがこのイベントを開催するに至ったきっかけのひとつに、2018年に同社の山下良則代表取締役社長(現・代表取締役会長)のもとに届いた、鹿児島県・沖永良部島に暮らす竿(さお)りりさんからの手紙があった。
当時小学生だったりりさんは、夏休みの宿題のために始めた海岸のごみ拾いを契機として、浜辺に漂着したごみを毎朝拾って清掃する「うじじきれい団」の活動を開始。その取り組みが注目され、さまざまな学会やシンポジウムへと参加するようになっていたという。しかしある時、りりさんが実践報告を行う予定だったシンポジウムの開催日程が、りりさんの弟が生まれる出産予定時期と重なってしまったとのこと。そこでリコージャパンが一翼を担う形で開設された施設を利用し、オンラインで報告を行うことが可能となった。
その後、山下氏のもとにりりさんから1通の手紙が届いたそう。そこには、学会への参加を可能にしたリコーの製品に対する感謝とともに、うじじきれい団の活動への想いが記されていた。その言葉に感銘を受けた山下氏は、手紙とともに届いた、りりさんたちによるプラスチックごみを使って描かれたリコーのロゴを手に、全社員へとメッセージ映像を配信。“美しい海を守るために何ができるのか”を問いかけた。
海洋プラスチックが無い未来のためにできることを
海洋プラスチックをテーマに据えた今回のイベントは、こうした想いを受けて構想されたものとして2023年より開催。来年以降については現状未定ではあるものの、リコーとしてごみ問題に対するメッセージを発信する場として重要だと考えているという。
先ほど登場した、りりさんたちの作ったリコーの文字は、実際のロゴに沿った赤っぽい色のプラスチックによってかたどられている。実は漂着する海洋プラスチックごみの中で、赤い色のものはなかなか無いのだとか。その理由は詳しくわかっていないが、“赤いプラスチックは魚たちがエサと勘違いして食べてしまっている”という可能性も考えられている。
忠実にロゴを再現するため、赤味がかったプラスチックがすき間なく並んだリコーの文字。しかし裏を返せば、数が少ないとされる赤のプラスチックごみでさえ、アートを完成させるだけの量が漂着しているともいえる。
うじじきれい団の活動が必要なくなり、海洋プラスチックごみを使ったアートが完成できなくなる未来こそが、本当に目指すべき未来だ。そのためにわたしたちが何をできるのか、日々生きる中ではなかなか見つめることのないプラスチックについて改めて考える機会として、この週末は日本科学未来館に足を運んでみてはいかがだろうか。