広島大学は3月7日、加熱式たばこの脳に与える影響が不明だったことから、アルツハイマー病の「前駆期」を模倣したモデルマウスを用いて評価した結果、加熱式たばこへの曝露により、非炎症性経路を介した影響が生じている可能性が明らかになったことを発表した。
同成果は、広島大大学院 医系科学研究科 脳神経内科学の山田英忠大学院生、同・山崎雄講師らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
加熱式たばこ製品は、副流煙が少ないことなどから、従来の紙巻きたばこ製品に代わる新たな選択肢の1つとなっている。しかし、その生体に対する影響、とりわけ長期間喫煙した場合の脳が受ける影響については、実際にはほとんどわかっていないのが現状。そこで研究チームは今回、アルツハイマー病の前駆期(症状が出る前の、病態が徐々に進行している長い期間のこと)を模倣したモデルマウスを用いて、加熱式たばこの長期喫煙が脳に与える影響を検証することにしたという。
まず、加熱式たばこの曝露環境を作り、それが喫煙モデルとして適切かどうかが検討された。15週齢のアルツハイマー病モデルマウス(Appノックインマウス)を、加熱式たばこに長期間(週5日間×16週間)曝露させ、血中コチニン値(ニコチンの主要な代謝産物。喫煙状態の指標として用いられている)の測定を実施。すると、血中のコチニン値は加熱式たばこに暴露されたマウスにおいて確かに上昇していることがわかったとする。
また肺の摘出が行われ、炎症性サイトカイン、酸化ストレス関連遺伝子、白血球遊走因子の遺伝子発現が、RT-qPCR法により解析された。すると、白血球遊走因子の遺伝子発現が加熱式たばこに暴露されたマウスにおいて上昇していることが確認されたという。これらの結果は、今回の研究の曝露環境によって、マウスが適切に加熱式たばこに曝露され、実際に肺への影響が確認されたことが示されているとした。
さらに、脳への影響を調べるため、大脳におけるアミロイドプラーク沈着や神経炎症の程度が調べられた。しかし、加熱式たばこに暴露されたマウスと暴露されていないマウスの間で、差はなかったという。それに加え、大脳皮質から抽出したRNAを用いた遺伝子発現解析や、調整p値(Benjamini-Hochberg法)を用いた解析においても、加熱式たばこに暴露されたマウスと暴露されていないマウスの間で遺伝子発現パターンに差はなかったとした。
その一方で、探索的に行われた非調整p値を用いた解析では、282個の遺伝子(発現上昇95・発現減少187)が加熱式たばこへの曝露によって変化していることが確認された。これらの遺伝子は、脳下垂体ホルモン活性、神経ペプチドホルモン活性、ガラニン受容体活性に関連していたとする。
加熱式たばこ製品の使用に伴う複合化学物質の摂取が、生体にどのような影響を与えるのか(安全性、有効性、危険性)については、さまざまな角度から評価する必要があるという。今後は、今回得られた結果がアルツハイマー病の脳内のみに見られる現象なのかどうかを明らかにするなど、ヒトで行うことが困難な研究(たとえば、加熱式たばこの使用により生じる生体変化を鋭敏にとらえるための血液検査法の開発など)を行うため、今回の動物実験モデルを活用する予定だとしている。